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内科学講座第3教室 北村健一郎 (2015年1月)

「Miller博士、冨田先生と第55回日本腎臓学会学術総会にて 2012年6月2日」 左端が筆者
 昨年10月に本学教授を拝命し、これから新たに山梨大学で研究を始めていくにあたって、これまでの自分の研究生活を振り返ってみたいと思います。
 私が初めて研究と出会ったのは東京医科歯科大学医学部の3年生の時でした。組織学の和気健二郎教授が講義のときに「いつでも教室に遊びにいらっしゃい。」とおっしゃっていたのを真に受けた私は、ときどき遊びに行ってお茶をご馳走になるようになりました。お茶を飲みながら、和気教授から形態学というものは単に細胞や組織の形態を観察する学問ではなく、生命現象を可視化することで構造と機能の連関を解明する学問であるを教えられ、大変興味を持ち、放課後や休日、長期休暇を使って研究の真似事をさせていただくようになりました。もちろん教室の先生の研究をお手伝いするという程度のものでしたが、自分で超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡を駆使して、夜中まで夢中で写真を撮影していました。3、4年生のころは一生懸命研究をやっておりましたが、5、6年生になると試験勉強や臨床実習が忙しくなり、研究室から足が遠のいてしまいました。また、この頃には分子生物学の大きな潮流が医学領域に押し寄せてきており、学生ながら私も形態学という目に見える生物学から分子生物学という目に見えない生物学へ憧れを抱くようになっておりました。和気教授には多くのことを教えていただきながらも、このような方向転換をすることを大変申し訳なく思いましたが、この組織学教室での経験が自分を研究生活へ進ませた大きなきっかけだったと思っています。
 卒業が近づき、基礎へ進もうか臨床へ進もうか非常に悩みましたが、自分が医学部を志した原点である「病気で苦しむ患者さんを助けたい」という気持ちに立ち返り、臨床へ進むことを決意しました。そして、臨床に進んでも基礎研究の機会は十分に与えるし、留学もすぐにさせてあげると言ってくださった丸茂文昭教授が主宰される第二内科に入局しました。2年間の初期研修中に臨床にどっぷりつかり、研究のことを忘れかけていたときに、その後長きにわたって私の研究を導いて下さることとなる腎臓グループの冨田公夫先生(当時助教授)から、一緒に腎臓生理学の基礎研究をしてみないかというお誘いをいただきました。学生のころから尿細管による電解質制御メカニズムに興味をもっていたこともあり、また第二内科腎臓グループの多くの先生方が海外留学を経験していらっしゃることにも惹かれて腎臓内科を専攻することに決め、冨田先生の研究グループへ弟子入りしました。冨田先生のグループは尿細管微小潅流法という手法を用いて、尿細管の電解質輸送を生理学的に解析することを研究テーマとしていましたが、冨田先生はこの方法論に限界も感じていらっしゃり、分子生物学を尿細管生理学に取り入れたいという考えをお持ちでした。そこで、私は卒後3年目というかなり早い時期にアメリカ留学を指示され、遺伝子クローニング法と細胞内情報伝達系解析法を習得することを課題としてテキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター腎臓内科のR. Tyler Miller博士の研究室へ留学しました。
 Miller博士は三量体G蛋白質による細胞内情報伝達系の研究を専門にしており、私もその研究に従事しました。日本でほとんど研究のトレーニングを積まないままアメリカへ留学した私は、Miller博士の研究室で実験手技や研究の組み立て方、サイエンスの考え方を一から教えていただきました。Miller博士はサイエンスの前ではすべての研究者は平等であるという考えをお持ちで、常に対等にディスカッションをしてくださり、また、彼の知り合いの研究者には積極的に私を紹介し、データをプレゼンテーションさせてディスカッションの機会を与えてくれました。テキサス大学には三量体G蛋白質の発見でノーベル賞を受賞したAlfred G. Gilman博士がいらっしゃり、Gilman博士とディスカッションするという経験もさせていただきました。さらに、Miller博士から多くの研究室と交流してお互いの研究をレベルアップさせるというcollaborationの重要性を教えられ、実際に私も数多くの研究室に出向して武者修行させていただきました。この頃は研究が楽しくて仕方がない状態で、寝食を忘れて研究に没頭していました。Miller博士からも研究生活のどこかで、そういう時期を経験することはとても重要だよと教えられました。3年間の留学生活で、J Clin Invest、J Exp Med、J Biol Chemなど計8編の論文を発表することができ、非常に充実した研究生活を送ることが出来ました。今思えば、私のようなど素人をよく雇ってくれたものだとMiller博士の懐の深さに感服し、心より感謝しております。私にとって研究の初歩からアメリカで教育を受けられたこと、そして海外の研究者と多くの人脈ができたことは私の研究生活を生涯にわたって支えてくれる貴重な財産となりました。
 私が海外留学している間に冨田先生が熊本大学の教授に就任されたこともあって、帰国後は熊本大学で研究を続けることにしました。冨田先生から、アメリカで何をやってきたかではなく、日本に戻ってから何をしたかで研究者としての評価がなされるのだといわれ、日本での自分の研究のアイデンティティーをどこに求めるかを模索する日々が続きました。そして冨田先生のアドバイスもあり、尿細管にある上皮型ナトリウムチャネル(ENaC)の活性化因子探索を研究テーマと決めて、現在のライフワークであるセリンプロテアーゼのプロスタシンを2000年にクローニングしました。このプロテアーゼは新規のものではなく、その7年前にアメリカのJulie Chao博士がヒト精液から単離したものの生理的役割が不明のまま放置されていたものでした。このChao博士は冨田先生がアメリカ留学時代に同じ研究室で研究していた友達であることが判明し、何とも不思議な縁を感じたものでした。早速共同研究を開始し、その後はChao博士のお弟子さんたちとも共同研究を進めながら順調に研究を進めることができました。さらにENaCの研究を進めていると、留学中にMiller博士から紹介していただいていたThomas Kleyman博士やLee Hamm博士、Mark Knepper博士たちの研究と次々とつながりがでてきて、研究室に招待していただいたり、共同研究を行ったりすることで、研究を進展させることができました。実はKnepper博士は冨田先生の留学中の上司であり、研究が自然と私をKnepper博士へと導いていったことに冨田先生御自身も大変驚かれ、この研究はきっと君のライフワークになるねとおっしゃっていたことを覚えています。その後、多くの国内外の研究者の方々と共同研究を続けることで、プロスタシンの研究が大きく展開し、プロスタシンが高血圧や糖尿病などの生活習慣病発症の重要な鍵分子であることを明らかにすることができました。現在、第3内科の教室員たちと生体におけるプロスタシンのさらなる機能解明を目指して、研究を進めています。
 このように振り返ってみると、研究生活や人生の転機には、必ず新しい人との出会いがあり、その出会いが次のステップへの大きな足掛かりになっていました。私の研究生活におけるもっとも大きなターニングポイントは海外での研究生活と多くの研究者たちとの出会いだったと思います。この文章を読んでくださっている医学生や研修医、若手医師の皆さんに私から一番お伝えしたいことは、たとえ一生臨床に身を捧げるとしても、一度は基礎研究にどっぷりつかった生活を送って欲しい、基礎研究に対してハードルを上げずに思い切って飛び込んでみて欲しい、そしてぜひ海外留学を経験して欲しいということです。海外で最先端の研究を行い、多くの人脈を作ることも大切なのですが、それ以上に海外で異文化を体験してくることが重要だと思っています。異国で生活することで、その国の優れている点や劣っている点を知ることが出来るとともに、日本の良さと悪さが見えてくると思います。日本では当たり前だと思っていることが海外ではまったく通用しないということは多々あります。これは海外で生活をしなければ決して分からないことですし、そのような経験が自分の視野を広げ、考え方の幅を広げてくれるものと信じています。そういった意味でも、ぜひ皆さんに海外留学を経験し、多くの人と出会って、大きく成長して欲しいと思います。
 若いということは多くの可能性を持っているということです。小さくまとまらずにチャレンジ精神をもって人生を切り開いていってほしいと思いますし、そのためのアドバイスは喜んでさせていただきます。最後に和気教授のお言葉を私からも皆さんにお伝えしたいと思います。「いつでも教室に遊びにいらっしゃい。」
 最後まで読んでくださってありがとうございました。
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