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後ろ向きなド素人の惑える軌跡

解剖学講座構造生物学教室 小田 賢幸(2016年10月)

2014年11月、Science誌に発表した論文の著者陣で記念撮影。左から筆者、柳澤春明先生、神谷律先生、吉川雅英先生。
 私が研究者を目指すようになったのは、虫取りに明け暮れていた小学校3-4年の頃からでした。当時の文集を見てみると将来の夢には「宇宙物理学の研究者」と書いてあります。にも関わらず、生物学に転向したのは実のところ極めて後ろ向きな理由で、中学受験で出会った長尾健太郎君をはじめとする数学の天才たちに圧倒され、「凡才の自分に一流の数学・物理学の研究など出来るはずがない」と打ちのめされたからです。中学で生物部に入部すると、カエルやマウスの解剖に魅了され、生物実験にのめり込むようになりました。高校の頃には、マウスの肝臓を一部切除して縫合し、蘇生させて再生能を見るなどといった実験も出来るようになりました。普通の人ならば、ここで医者を志すところですが、私はあくまで基礎研究一筋でした。それは、私を研究に駆り立てる原動力が「人・社会への貢献」ではなく、「生命現象への好奇心」あるいは 「Neuesに対する欲求」だったからで、それは今も変わりません。高3になり、英語の勉強も兼ねてNature誌を自費購読し始めました。しかし英文自体を読むことが出来ても、用いられている実験方法を自分自身が体験しなければ論文のanalytical readingは不可能であることに気付き、焦燥感を覚えました。そこで、大学に入ったら一刻も早く研究室に飛び込み、最先端の実験を自らの手で行おうと決意しました。
 東京大学に入学してすぐ、医学部の基礎系研究室を見学して回り、夏から廣川信隆先生の解剖学教室で実験を始めました。この教室を選んだ理由も後ろ向きで、ある研究室を訪問した際、某先生から「君のようなド素人を指導している暇は無い!」と拒絶され自分の身の程を知り、「ド素人の自分が邪魔にならないような大きな研究室へ行こう」と考えたからです。当時は学部1年生が研究室に入ることは珍しく、必ずしも教官に歓迎されるわけではありませんでした。今では山梨大学の特進コースのように、研究室の方から学部生を募集することが一般的になり、良い時代になったと感慨深いものがあります。解剖学教室ではE. coli two-hybrid systemの立ち上げや、マウス脳からGST-pulldownスクリーニングなどを行い、分子生物学と生化学の基礎手技を学びました。解剖学教室は自由な雰囲気で楽しかったのですが、研究テーマの問題から1年弱で教室を出ることになります。
 薬理学教室の飯野正光先生の薦めで、学部4年次修了後にPh.D.-M.D.コースに進学することを決めていた私は、自分にある課題を課していました。Ph.D.-M.D.コースは、卒業研究や修士過程にあたる期間を飛ばして博士課程に入ります。そこで私は、学部4年間で必ず一本論文を書き、他学部出身の院生と同等の経験を積んでいることを証明する、と決めていたのです。しかし、解剖学教室で与えられたテーマは、医学部の授業に出ながら4年で結果を出すには難しすぎました。悩んだ末、私は学部2年次から野本明男先生の微生物学教室で研究することにしました。野本先生に与えられたテーマは、ポリオウイルス受容体の生理的機能を見つけろ、という決して軽くはないプロジェクトでしたが、2年間の悪戦苦闘の末、論文にしてまとめることが出来ました。しかし、その研究の過程で私は最大の問題にぶつかりました。自分がやりたい研究がなんなのか分からなくなったのです。微生物学教室での研究は、培養細胞を用いた細胞染色とウエスタンブロッティングが主な実験手技でした。確かに論文になるデータは出せましたが、in vitroの結果が果たして生命現象の真実なのか、自分の結論に自信が持てませんでした。そんな時、解剖学教室を独立してテキサス州立大学で助教授をされていた吉川雅英先生から夏休みに遊びにこないかと誘われました。心にモヤモヤを抱えたまま、アメリカへ行った私を待っていたのは、電子顕微鏡によるタンパク質の三次元構造解析という新しい技術でした。微小管の美しい三次元構造を目にした私は、真実に素手で触れたような感動を覚えました。そして、電子顕微鏡こそ自分のデータが真実であると胸を張って言える実験手技であると確信したのです。
 その後、吉川雅英先生に10年間師事して電子顕微鏡の技術を学び、クライオ電子トモグラフィーの分野では世界のトップ研究者と比肩するレベルになれました。私の今があるのは、沢山の先生方が私のような生意気な学生に正面から向き合い、手を差し伸べて下さったからです。先生方の助けが無ければ、私は研究の袋小路に迷い込んで、挫折していたかもしれません。これを読んでいる学生の皆さんも、進路や研究で行き詰まったら遠慮無く先生方を頼りましょう。出会いの中に必ず、道を切り開くヒントが隠されているはずです。 
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