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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2009.3.11

2009年3月11日 担当:須田

Effectiveness of policy to provide breastfeeding groups (BIG) for pregnant and breastfeeding mothers in primary care: cluster randomized controlled trial
~ 一次医療圏において、妊婦や母乳育児中の母親達のために、母乳栄養グループを提供するための政策の有効性:クラスターランダム化比較試験 ~
出典: BMJ 2009;338;a3026
著者:Pat Hoddinott, Jane Britten, Gordon J Prescott, David Tappin, Anne Ludbrook and David J Godden
<論文の要約>
目的:
妊婦や母乳育児中の母親達のために、母乳栄養グループを提供するための方針の効果とコストパフォーマンスを評価すること。

方法:
研究デザインは、実施のプロセスを評価するための事例研究を組み込んだ前向き研究である、クラスターランダム化比較試験とした。研究を行った地域は、スコットランドの一次医療圏である。研究対象は、母乳栄養のアウトカムのデータを定期的に集めているスコットランドの家庭医の66地域のうち、14の集団に登録している妊婦、母乳栄養中の母親とその赤ちゃんである。介入群の地域では、研究対象を規定するために、新しい母乳栄養グループを構成した。コントロール群の地域では、従来から行われているグループの取り組みを変えなかった。第1のアウトカムは、介入実施前の2年間と介入実施後の2年間に定期的に集められたデータから、生後6~8週間の時点で母親が母乳栄養を行っているかどうかであり、第2のアウトカムは、出生、生後5~7日、生後8~9ヵ月の時点での母親が母乳栄養を行っているかどうかということと、母親の満足度である。

結果:
2005年2月1日から2007年1月31日の間に、介入群の地域では、9747人の出生記録が、コントロール群の地域では、9111人の出生記録が存在した。母乳栄養グループの数は、介入群の地域では10から27に増加した。そして、そこでは、1310人の女性が参加した。コントロール群の地域では10グループのままであった。母乳栄養のアウトカムにおける有意差は、全くなかった。生後6~8週間の時点での母乳栄養を行っている割合は、介入群の地域では27%から26%に減少し、コントロール群の地域では29%から30%に増加した。方針の実施に参加しない地域では、生後6~8週間の時点での母乳栄養を行っている割合は、38%から39%に増加した。母乳栄養グループに入っている女性は、現在母乳栄養グループに入っていなく、これから母乳栄養を始めようとする女性よりも、有意に年をとっていた(P<0.001)。そして、母乳栄養グループに入っている女性は、産後のグループに入っているコントロール群である地域の女性よりも有意に所得が高かった(P値0.02)。その地域のコストは、1年間で、13400ポンド(14410ユーロ;20144ドル)であった。

結論:
スコットランドの比較的貧しい地域において、母乳栄養グループを提供するための方針によって、生後6~8週間の時点での母乳栄養の割合は、改善しなかった。そのグループ運営にかかる費用は、産婦や新生児の家庭訪問にかかる費用とほぼ同じであった。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>

方法について:
■介入群、コントロール群の他に、同時期に他の地域ではどうかという外的妥当性を検討するためにexternal control群をおいている。
■研究期間は、準備、トレーニング期間を含め4年半に及んでいるが、研究の全容が見えるまでに時間がかかる。
■母乳栄養グループのミーティングには、ボランティアや主要投資者等も参加しているが、このように住民パワーを活用する場合、「人との関わりを嫌う」という要素がマイナスに働くことがある。
■研究対象者に質問紙を配布し回答してもらっているが、Costs and benefits をどのような方法で確認したのかが明記されていない。

結果について:
■母乳栄養のアウトカムにおける有意差は全くなく、ネガティブな結果となったが、研究デザインが大きすぎたため、差を出すのが難しかったのではないか。実際に、大規模の地域介入では効果が見られないことでも、小規模の地域介入により効果が見られることがある。RCTを行う際には、介入対象についてターゲットを絞り、介入内容を吟味する必要がある。

考察について:
■この研究は、政府の基金で行われていたにも関わらず、研究の途中で全国的な政策の変更があったために、規定していた母乳栄養データの収集ができなかった。
■この研究による介入の間、多くの子供が生まれ、子供に役立つ補助金の助成や、地域での母乳栄養増加のための指導が行われたという時代背景的な要因もあったことから、介入以外により生じた変化も見逃すことはできない。







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