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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2010.9.8

2010年9月8日 担当:井川

Health-Related Quality-of-Life Assessments and Patient-Physician Communication
~ 健康に関連するQOLの評価と患者-医師のコミュニケーション~
出典: JAMA. 2002;288:3027-3034.
著者: Symone B. Detmar; Martin J. Muller; Jan H. Schornagel; et al.
<論文の要約>
背景:
日々の診療における身体的、心理社会的問題の検出や疾患や治療のモニタリング、ケアの改善などの目的で、健康に関連するQOLスケール(HRQL)使用への関心が高まっている。先行研究では、日々の診察にHRQLを使用することのメリットが報告されているが、その効果を実証した研究はない。そのため、医師-患者間のコミュニケーションを促進するHRQLの有効性を明らかにすること、患者のHRQL関連の問題への医師の関心を高めることを目的に介入を行った。

方法:
1996年6月、1998年6月の2回、調査参加を呼びかけ、10人の医師と緩和的化学療法を受けている214人の患者(76%が女性、平均年齢57才)に介入を行った。連続した4回の外来診療を行い、介入群には患者が記入したHRQL質問紙(QLQ-C30)のサマリーをもとに診療を行う。QLQ-C30は5つの機能的スケール(身体的、役割、認識、感情的、社会的)と、3つの症状スケール(疲労、疼痛、吐気・嘔吐)と他の症状で構成される。メインアウトカムは、コミュニケーションスコアとして診察時の話題(QLQ-C30に含まれる健康関連の話題)の頻度、セカンダリーアウトカムはHRQLに関する医師の関心(COOP/WONCAのチャート)、医師の患者管理行動、患者と医師の満足度、患者のHRQL(SF-36)など。

結果:
4回目の診察時のコミュニケーションスコア (SD)は、介入群4.5(2.3)、対照群3.7(1.9)(P=.01; 効果量=.38) で、社会的機能、疲労感、および呼吸困難において、介入群のほうが話題にあげる頻度が高かった。HRQLに関する 医師の関心、医師の患者管理行動には目立った差はなかった。患者満足度においては、介入群のほうが感情的支援を 行っていることへの満足度が高かった。

解釈:
介入によってHRQLに関する問題について話題にする頻度がかなり高くなった。またHRQLに関連する問題の中でも見えにくい問題、長期にわたる問題、医療関係者が知らされないままになっている問題について話題にする機会が増えたことは注目すべきである。また患者の約25%が親族やかかりつけ医とサマリーを共有しており、専門医からの問題指向のフィードバックを受けることが患者の健康状態をかかりつけ医に知らせる手段であるという先行研究を支持する結果である。研究の限界として、多くの検定をしているため多重性の問題に注意が必要ということ、クロスオーバーデザインによるキャリーオーバー効果とコンタミネーションのリスクの可能性、単一の専門病院で行われていることを述べている。今後はHRQLによる評価の柔軟性と精度を改良し、患者のHRQLスコア(の変化)と専門的な治療とケアの方向性をリンクさせていく必要がある。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
1)クロスオーバーについて
同一の対象者(患者)をクロスさせて介入効果を見る通常のクロスオーバーと違い、この研究では介入者(医師)をクロスさせ て、介入者の持つ背景を一定にしている。介入者(医師)の属性については記載しなくてもよいかという意見がでたが、クロスさせることで介入者の条件がそろうので必ずしも必要な情報でないと判断したのかもしれない。

2)クロスオーバーによるキャリーオーバー効果について
初めに介入群にいた対象者がコントロール群に移った時に、介入時の影響を受けてしまうこと。この研究でもそのような影響が見られてしまうことが述べられており、Figure3で説明されている。

3)研究の限界について
本文中でも述べられているが、多くの検定をしているため、結果には多重性の問題が発生し、有意差がでる可能性が高くなっている。実際にその誤差を修正したところ、HRQLの話題を出す頻度には有意差が出なくなってしまったと述べられている。


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