PAGE TOP

国立大学法人

山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2015.12.9,16

2015年12月9日,16日    担当:大岡、塚原

Association Between Unintentional Injury During Pregnancy and Excess Risk of Preterm Birth and Its Neonatal Sequelae
~ 妊娠中の不慮の外傷と、早産やその新生児の後遺症における過剰なリスクとの関連 ~
出典: AJE 2015;Vol.182,No.9 doi:10.1093/aje/kwv165 (Published 25 September 2015)
著者: Shiliang Liu,Olga Basso,Michael S. Kramer
<論文の要約>
仮説:
早産の後遺症は、出生に急性イベントが付随するのか、または慢性的な状態が付随するのかによって異なるかもしれない。

目的:
妊娠中の不慮の外傷と早産およびその後遺症が関連しているかを検討すること。

研究デザイン、セッティング、対象者、曝露因子:
2003年から2012年の間に、カナダの病院で出産した2,711,645人の地域ベースのコホートを対象とし、そのうち3059人が妊娠中に不慮の外傷を経験した。

主要アウトカム:
妊娠転帰と非外傷性頭蓋内出血や呼吸窮迫症候群、挿管、死亡などの新生児合併症における急性イベントからの影響を評価した。ロジスティック回帰分析において、妊婦の年齢、出産回数、妊娠の状態、妊娠期間を調整した。

結果:
外傷は胎児死亡率や早期早産に明らかに関係していた。外傷のない母親から産まれた早産児よりも良好な胎児発育であるにもかかわらず(調整済み在胎週数に対する出生体重のzスコア:0.154対0.024, P=0.041;SGA率は4.5%対9.5%,P=0.001)、母親が外傷のために入院している間に産まれた早産児は、外傷のない母親から産まれた早産児と比較して、調整済みオッズ比は胎児死亡で2.25(95%CI:1.23,4.17)、呼吸困難(呼吸窮迫症候群)で2.44(95%CI:1.76,3.37)、非外傷性頭蓋内出血で2.20(95%CI:1.26,3.84)、挿管で2.17(95%CI:1.60,2.96)であった。

結論:
早産となる慢性的な原因の下では、決して適切とは言えない子宮内環境への適合が、早産児を有害な後遺症から保護する可能性が示唆された。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■Introductionの内容が少ないので、本研究の目的が分かりにくい。特に、「急性疾患やイベントが、慢性的な状態よりも、早産、さらに早産による後遺症と関連している」という仮説から、突然不慮の外傷が出現しているため、今回の検討でこの仮説をどのように明らかにしたいのかを明確に記載したほうがいいと思われた。

■「不慮の外傷」と「故意の外傷」は様々なものを含むので、特に、「急性のイベント」と考えた場合の解釈が難しい。

■個人識別情報が削除された情報なので、倫理審査委員会の承認は必要とされなかったとあるが、日本では審査を必要とすると考えたほうがいいだろう。

■外傷を負った女性に対して正しい分析を行うためには、外傷の詳細(診断名や重症度、行われた治療等)についても検討する必要がある。

■この研究が行われた産科的問題の背景が詳細に提示されていないため、専門外の者にとってはステロイド使用についての考察など、理解が難しい部分があった。専門外であっても理解できるような説明があるとよかった。



前のページに戻る