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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2016.7.13

2016年7月13日    担当:溝呂木

Cardiovascular safety of metylphenidate among children and young people with attention-deficit/hyperactivity disorder(ADHD): nationwide self controlled case series study
~ 注意欠陥多動性障害(ADHD)の小児と若者におけるメチルフェニデートの心血管安全性: 全国自己対照ケースシリーズ研究 ~
出典: BMJ 2016 May 31 ;353:i2550
著者: Ju-Young Shin, Elizabeth E Roughead, Byung-Joo Park, Nicole l Pratt
<論文の要約>
【目的】
ADHDの小児と若者におけるメチルフェニデート治療が心血管イベントと関連するかを調査すること。

【研究デザイン】
自己対照ケースシリーズ解析

【セッティング】
韓国の2008年1月1日から2011年12月31日の国民健康保険データベース。

【参加者】
心血管イベントを経験し、メチルフェニデートの処方を少なくとも1回は受けた17歳以下の1224人。

【主要アウトカム】
次の心血管イベントの診断された記録(一次か二次かどちらか):不整脈(ICD-10コード I44,45,47,48,49)、高血圧(I10-15)、心筋梗塞(I21)、脳卒中(I63)、心不全(I50)。罹患率比は条件付きポワソン回帰で計算し、時間依存性の併存症と併用薬で調整した。

【結果】
不整脈のリスクの増加が全暴露期間、つまりメチルフェニデート治療期間で観察され(罹患率比1.61、95%信頼区間1.48‐1.74)、このリスクは先天性心疾患の児において高かった。心筋梗塞のリスクは有意ではなかった(1.33、0.90‐1.98)、けれどもメチルフェニデート治療開始後8-56日の早期のリスクは高かった。高血圧、脳卒中、心不全では有意なリスク増加は観察されなかった。

【結論】
心筋梗塞と不整脈の相対危険は、ADHDの小児と若者において、メチルフェニデート治療の開始早期に増加した。けれども、絶対リスクは低く、特に軽度のADHD児においては、メチルフェニデートのリスクとベネフィットのバランスが注意深く考慮されるべきである。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■自己対照ケースシリーズという手法(ロスマンの症例クロスオーバー研究と同義)は、交絡が制御できる魅力的なデザインだと思われる。本文中にはこのデザインの強みが多くあげられており、限界が記載されていない。しかし、同一個人がコントロールであるため、対照とケースの時点の影響を受けることが限界だろう。
    ■時間依存性交絡として、年齢、併存症および併用薬を投入したモデルとの記載があるが、どのように行ったのかは述べられていない。具体的な方法を記載したほうがよいと思う。
    ■処方日と処方日数から曝露期間が計算されているため、実際の内服状況が厳密に反映されているわけではない。しかし、デザインからは過小評価と考えられるので、結果解釈への影響は少ないと考えられる。


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