PAGE TOP

国立大学法人

山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2016.11.2

2016年11月2日    担当:岡安

Secondhand smoke and incidence of dental caries in deciduous teeth among children in Japan: population based retrospective cohort study
~ 日本の子どもにおける2次喫煙と乳歯う蝕の発生との関係:集団後ろ向きコホート研究 ~
出典: BMJ 2015;351:h5397
著者: Shiro TANAKA,Maki Shinzawa,Hironobu Tokumasu,Kahori Seto,Sachiko Tanaka,Koji Kawakami
<論文の要約>
【研究のテーマ】
妊娠中の母親の喫煙と生後4か月の幼児のたばこの煙への曝露は乳歯う蝕のリスクを高めるか?

【方法】
2004年から2010年の間に日本の神戸市で生まれ、市が実施する4、9、18か月児、そして3歳児健診を受け、生後4か月での家族の喫煙状況、18か月、3歳における歯科健診データの揃っている76,920人の子どもを対象とする集団後ろ向きコホート研究である。妊娠中の喫煙と幼児の生後4か月の時の2次喫煙への曝露は両親へのアンケート調査により把握した。メインアウトカムは乳歯う蝕の発生とし、規定の基準を満たした歯科医師がレントゲンなしでう蝕歯、喪失歯、もしくは処置歯の有無を診査した。臨床的、生活習慣的特徴について傾向スコアの調整を行った上で、家族に喫煙者がいない場合と比較したときの2次喫煙への曝露に関するハザード比をコックス回帰モデルを用いて検討した。

【研究の答えと限界】
76,920人の子どもの家族の喫煙率は55.3%(n=42525)、そしてたばこの煙への曝露が明らかな者は6.8%(n=5268)であった。合計で12729人にう蝕が認められ、そのほとんどはう蝕歯(3年間の追跡率91.9%)であった。3歳でのう蝕リスクは14.0%(家族に喫煙者がいない者)、20.0%(家族に喫煙者がいるがたばこの煙への曝露が明らかでない者)、そして27.6%(たばこの煙への曝露がある者)。2つの曝露群を家族に喫煙者がいない群と比べた場合の傾向スコア調整後のハザード比はそれぞれ1.46(95%信頼区間1.40-1.52)、2.14(1.99-2.29)であった。妊娠中に喫煙していた群と家族に喫煙者がいない群との間の傾向スコア調整後のハザード比は1.10(0.97-1.25)であった。

【本研究により明らかとなったこと】
生後4か月の時のたばこの煙への曝露はう蝕リスクを2倍増加させる、そして家族に喫煙者がいる場合もう蝕リスクが1.5倍増加する、一方で母親の妊娠中の喫煙の影響は統計学的に有意ではなかった。

【支援、利益相反、情報共有】
本研究は科学研究費補助金(研究課題番号26860415)による助成を受けた。開示すべき利益相反はない。

【既に明らかとなっていること】
先進国における乳歯う蝕罹患率は高い。 子どものう蝕予防対策には砂糖消費の制限、フッ素化合物添加の歯科製品の応用、そしてフッ素塗布がある。 横断研究の結果から2次喫煙と乳歯う蝕、永久歯う蝕との関連性が示唆されているが、スウェーデンで行われたコホート研究の結果では明らかとなっていない。

【本研究で明らかとなったこと】
生後4か月でのタバコの煙への曝露は乳歯う蝕のリスクを約2倍にする。 家族に喫煙者がいる場合はう蝕リスクが1.5倍になり、母親の妊娠中の喫煙の影響について統計的な有意差は認められなかった。 これらの結果について因果関係の確立はできないものの、2次喫煙を減らすための公衆衛生や臨床的介入の拡大を支持するものである。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■SESが交絡因子として適切に把握されているかどうか不明であり、考察で不明な交絡因子が存在していると明記されているものの傾向スコアに十分反映されていない。共変量の調整不足の可能性があり、結果への影響が懸念される。
    ■分析から除外された対象者との比較や、3歳児健診受診者と非受診者との比較において有意差が認められた項目に母親の年齢や出生順位が含まれていた。その差はわずかだったと考察されているが、決して影響が少ないと思えず、十分な考察がされていないのではないか。
    ■2次喫煙がう蝕発生に及ぼす生物学的メカニズムに関する記載が十分でない。
    ■喫煙者のほとんどが父親であったが、家族全体の喫煙率55.3%は高く、その他の交絡因子に関する把握も不十分な状況で日本の大都市の状況を反映していると言えるのか。


前のページに戻る