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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

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2016年11月16日    担当:小村

Enrique Regidor, Fernando Vallejo, Jose A Tapia Granados, Francisco J Viciana-Fernandez, Luis de la Fuente, Gregorio Barrio
~ 社会経済的集団ごとにみた、スペインの経済危機の間の死亡率の変化:3600万人のコホート研究 ~
出典: THE LANCET Available online 13 October 2016 In Press
著者: Enrique Regidor, Fernando Vallejo, Jose A Tapia Granados, Francisco J Viciana-Fernandez, Luis de la Fuente, Gregorio Barrio
<論文の要約>
【背景】
マクロ経済の変動が各社会経済的集団の死亡率に与える影響についての研究は、あまりなく、それらの結果もまちまちである。大恐慌中とその前とで、スペインの異なる社会経済的集団の死亡率の傾向を分析して、各集団内での変化を定量化した。

【方法】
2001年の国勢調査のデータを用いて、全国規模の前向き研究を行った。2001年11月1日にスペインに住んでいたすべての人が2011年12月31日まで追跡された。経済危機前の2004年から2007年までの4年間と経済危機中である2008年から2011年までの4年間の各暦年において10歳以上74歳以下であり、2001年に生存している35,951,354人が含まれ、それらの人の全死因死亡率と死因別死亡率を分析した。二種類の世帯の裕福さの指標を用いて、個々人を、低・中・高、に分類した。その指標とは、家の床面積(<72m2, 72-104 m2, >104 m2)と、自宅に住む人が所有している車の数(0台, 1台, 2台以上)である。ポアソン回帰を用いて、経済危機前の2004-2007年と経済危機中である2008-2011年における、社会経済的集団ごとの死亡率の年間のパーセント減少量(以下、APR)を算出し、同様にエフェクトサイズも、経済危機前後のAPRの差を用いて測定した。

【結果】
個々人を家の床面積で分類した場合、3つの社会経済的集団における全死因死亡率の年間減少量は、2004-2007年においては、低集団で1.7%(95%CI 1.2-2.1)、中集団で1.7%(1.3-2.1)、高集団で2.0%(1.4-2.5)であり、2008-2011年においては、低集団で3.0%(2.5-3.5)、中集団では2.8%(2.5-3.2)、高集団では2.1%(1.6-2.7)であった。所有している車の数で分類した場合、全死因死亡率は、2004-2007年においては、低集団で0.3%(-0.1-0.8)、中集団で1.6%(1.2-2.0)、高集団で2.2%(1.6-2.8)であり、2008-2011年においては、低集団で2.3%(1.8-2.8)、中集団で2.4%(2.0-2.7)、高集団で2.5%(1.9-3.0)であった。どちらの富の指標を使っても、低社会経済的集団において、エフェクトサイズが最大となった。

【解釈】
スペインにおいては、おそらくはリスクファクターへの曝露が減少したために、経済危機の前よりも経済危機中において全死因死亡率がより減少し、特に低社会経済的集団でそうであった。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ◆研究対象者を74歳までとした理由が述べられていないので、説明したほうがよいのではないか。
    ◆Wealth Indicatorに関して、どういった理由から今回のように3分割したのかが論文からは読み取れない。また、これらのIndicatorは地域、家族構成によって意味合いが異なってくるので、必ずしも社会経済的状況を正しく表しているとは限らないと思う。
    ◆Table2, 3では、全死因死亡率のAPRと死因別死亡率のAPRの推移が、Table4では性別と年齢で層化したAPRの推移が、各Wealth Indicator別に示されている。検定を沢山行っているのでP値を調整すべきであると思う。
    ◆がんによる死亡率が経済危機中において緩やかであった理由については、がん治療の多くは高額であるため、医療費による影響についても議論した方がよいと思う。また医療へのアクセスのし易さもこれに関連する議論になるだろう。
    ◆経済危機中の死亡率の変化をみているとあるが、この期間中にあらゆる変化が同時に起こっており、何が原因となって、このような結果となったかは明確にはなっていない。しかし、多くの信頼性の高い引用文献を用いて議論していることが、解釈の説得力を強めていると感じた。


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