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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2017.2.8

2017年2月8日    担当:春山

Incidence of Dementia over Three Decades in the Framingham Heart Study
~ フラミンガム心臓研究における30年間での認知症発症率 ~
出典: The New England Journal of Medicine. 2016. 374;6:523-532
著者: Claudia L. Satizabal, Alexa S. Beiser, Vincent Chouraki, Genevieve Chene, Carole Dufouil and Sudha Seshadri
<論文の要約>
【目的】
認知症の有病率は平均余命が延長するにつれ上昇すると予測されるが、近年の推計によれば、高所得国で認知症の年齢別の発症率が低下していることが示唆されている。この研究では、フラミンガムスタディ参加者の認知症発症率を、 30 年間の経時的傾向として報告する。

【デザイン】
後ろ向き縦断コホート研究を用いた。

【セッティング】
米マサチューセッツ州フラミンガムに住む地域住民を対象とした。

【参加者】
4つの年代区分のベースライン時に認知症がなかった60 歳以上の 5,205 人を対象とした。

【主要アウトカム測定】
4つの年代区分における認知症の 5 年発症率をアウトカムとした。

【結果】
年齢と性別で補正後の認知症の 5 年累積ハザード率は、第 1 期(1970 年代後半~1980 年代前半)では 100 人あたり 3.6、第 2 期(1980 年代後半~1990 年代前半)では 100 人あたり 2.8、第 3 期(1990 年代後半~2000年代前半)では 100 人あたり 2.2、第 4 期(2000 年代後半~2010 年代前半)では 100 人あたり 2.0 であった。第 1 期の発症率と比較して、第 2 期は 22%、第 3 期は 38%、第 4 期は 44%低下した。このリスク低下は、学歴が高校卒業以上の参加者に限って認められた(ハザード比 0.77、95%信頼区間: 0.67-0.88)。大部分の血管危険因子(肥満と糖尿病を除く)の有病率と、脳卒中、心房細動、心不全に関連する認知症のリスクは経時的に低下したが、これらの傾向のいずれによっても、認知症発症率の低下を完全に説明することができなかった。

【結論】
フラミンガムスタディ参加者において、認知症発症率は 30 年間で低下した。この低下に寄与する因子は、完全には同定されていない。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■学歴について、4つの時期で全て同様に高卒以上と高卒未満に分けているが、30年間で「高卒」の値打ちが変わってきている可能性がある。30年前は高卒でなくとも良い仕事に就けたが、現在では就職が困難で多くの人が進学している。退職後の状況も時代と共に変化しているはずであるが、その点については言及されていない。
    ■認知症発症低下の要因を同定できなかったとしているが、Table 4からは心血管リスクで調整した5年ハザード比が全て統計学的に有意となっており、今回検討された心血管リスクの全てに関連があったともいえるのではないか。
    ■研究の限界としても書かれているが、食事や運動の影響は大きいと思われるので、検討に含めた方が良い。
    ■過去の記録をと現在の認知症判断基準(クライテリア)に照合して認知症を判定している。現在の判断基準で全てのケースをレビューしたものが、信頼できるものといえるのかわからない。
    ■APOEε4遺伝子によりアルツハイマー病の発症率が高くなる。この研究結果から計算すると、APOEε4遺伝子をヘテロまたはホモで保有する人のオッズ比は1.7倍ほどになる。


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