PAGE TOP

国立大学法人

山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2017.5.24

2017年5月24日    担当:大出

Migraine and risk of cardiovascular disease in women:prospective cohort study
~ 女性の片頭痛と心血管イベントリスクについて:前向きコホート研究 ~
出典: British Medical Journal (bmj), 2016; 353:i2610.
著者: Kurth T, Winter AC, Eliassen AH, et al.
<論文の要約>
【目的】
女性の片頭痛と心血管イベント発症および心血管イベントによる死亡との関連について評価する。

【研究デザイン】
女性看護師の疫学研究(Nurses’ Health Study II)を用いた前向きコホート研究。フォローアップ期間は1989年~2011年。

【セッティング】
アメリカの女性看護師のコホート

【対象者】
115 541名の女性でベースライン時の年齢が25-42歳また、狭心症など心血管イベントの既往がない者。フォローアップ率は90%以上。

【主要アウトカム】
プライマリアウトカムは、心血管イベントで、心筋梗塞、脳卒中、その他致死的心血管イベントの複合アウトカム。副次アウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、狭心症/冠動脈血管再生術および心血管イベントによる死亡を個々に検討した。

【結果】
17 531 (15.2%)の女性が医師に片頭痛と診断されたとレポートした。20年以上のフォローアップ期間中、1329名が主要な心血管イベントを発症し、223名が死亡した。 潜在的な交絡因子で調整した後、片頭痛と心血管イベントの関連を認めた。調整済みハザード比はそれぞれ、複合アウトカム:HR(95%CI)= 1.50(1.33-1.69)、心筋梗塞:HR(95%CI)=1.39(1.18-1.64)、脳卒中:HR(95%CI)=1.62(1.37 -1.92) 、狭心症/冠動脈血管再生術:HR(95%CI)=1.73(1.29-2.32)。さらに、片頭痛は心血管イベントによる死亡との有意な関連も認めた(HR(95%CI)=1.37(1.02-1.83). これらの関連は、年齢 (<50歳、竕・50歳)、喫煙(吸っている、過去に吸っていた、吸わない)、高血圧の既往(あり、なし)経後ホルモン補充療法(現使用者、非現使用者)、経口避妊薬(現使用者、非現使用者)によるサブグループ解析においても同様であった。

【結語】
このフォローアップ期間が20年以上の女性を対象とした前向きコホートで、片頭痛と心血管イベントおよび心血管イベントによる死亡の一貫した関連が認められた。片頭痛持ちの女性に対して、心血管リスクを評価すべきである。今後、片頭痛患者を対象とした心血管イベント発症を予防に関する研究が必要である。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■片頭痛のメカニズムは非常に複雑で、未だわかっていないことが多い。本研究は、片頭痛と心血管イベントに関連を認めたが、あくまでも片頭痛は予測因子のひとつであり、リスクとは述べていない。片頭痛を訴えた患者にはより詳細な心血管イベントリスクの評価を行うべきと主張している。
    ■Nurses’ Health Study IIのカルテ開示許諾に関する書類を見ると、確実にアウトカムのデータを収集できるように工夫していることが見受けられる(親族やかかりつけ医を始め、複数の人にこの書類を配ることを薦めているなど)。
    ■コホートはフォローアップが長くなるとフォローアップ率がどうしても下がってくるのが常であるが、本研究は20年ものフォローアップ期間と長いが、脱落率も10%と低値である。(本論文ではcumulative response rate(1度でも回答があった者)の割合を90%と報告している。P.2 Line8)
    ■P.2右側のLine25. Fatal cardiovascular disease was defined as fatal coronary heart disease, fatal stroke, or fatal cardiovascular disease.の循環器疾患の分類について議論になった。
    イギリスのNICEの解説によると CVD(心臓血管疾患-Cardiovascular Disease )は、主にCHD(冠動脈疾患-Coronary Heart Disease)、脳卒中(脳出血、脳梗塞-stroke)、TIA(一過性脳虚血発作- Transient ischemic attack)、 末梢動脈疾患(PAD:Peripheral Arterial Disease)、大動脈瘤(Aortic aneurysm)の総称であり、CHD(冠動脈疾患-Coronary Heart Disease)には、狭心症(angina)、心臓発作(heart attacks)、心不全(heart failure)が含まれる。 http://www.nhs.uk/Conditions/cardiovascular-disease/Pages/Introduction.aspx#types
    ■非差異的な誤分類バイアスに関する記述が本文中にあったので、非差異的な誤分類バイアスが生じた際は、むしろ過少になる原理についてレビューを行った。
    ■最新のSTROBEガイドラインによると、本文中で用いられているProspective Cohortの”Prospective”という用語は用いず、Cohortと記載することが推奨されている。
    ■日本でも、群馬大学 林 邦彦先生が主任研究者として、看護師をリクルートした日本ナースヘルス研究(JNHS)が行われていることが紹介された。 http://plaza.umin.ac.jp/~jnhs/


前のページに戻る