PAGE TOP

国立大学法人

山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2020.1.13

2020年1月13日    担当:岩淵

Development and Validation of an Electronic Health Record–Based Machine Learning Model to Estimate Delirium Risk in Newly Hospitalized Patients Without Known Cognitive Impairment
~ 認知機能に障害の無い新規入院患者のせん妄リスクを推定するための電子カルテ記録に基づく機械学習モデルの開発と妥当性の検証 ~
<論文の要約>
【IMPORTANCE】
せん妄リスクが高い入院患者を特定するための現行手法は、看護師が実施する質問紙が必要であり、精度も中程度である。

【OBJECTIVE】
入院時に利用可能な電子カルテ情報に基づいてせん妄リスクを予測する機械学習モデルの開発および妥当性の検証を行うこと

【DESIGN, SETTING, AND PARTICIPANTS】
専門家委員会によってせん妄予測に関連し、入院から24時間以内に電子カルテ記録で一貫して利用可能な796の臨床変数を使用して、せん妄を予測する5つの機械学習アルゴリズムを評価する後ろ向きコホート研究。学習データセットは、UCSF Health(カリフォルニア大学サンフランシスコ校メディカルセンター)において2016年1月1日から2017年8月31日の間に退院した14227人の成人患者(入院時にせん妄が無く、ICUに入室していない)で構成された。テストデータセットは、2017年8月1日から2017年11月30日の間に退院した患者3996名で構成された。

【EXPOSURES】
入院中電子カルテから入手可能な、患者背景、診断名、看護記録、検査データ、投薬情報

【MAIN OUTCOMES AND MEASURES】
せん妄は、NuDESCまたはCAMICUで判定。モデルは、ROC曲線の下の領域(AUC)を使用して評価され、施設で日常的に実施されている4項目のせん妄リスク評価ツールAWOL(80歳以上、“WORLD”を逆に綴ることができない、見当識障害、看護師評価による病気の重症度)と比較した。

【RESULTS】
学習データセットは、14227人の患者(65歳以上:5113人[35.9%]、女性:7335人[51.6%]、せん妄あり:687人[4.8%])、テストデータセットでは、3996人の患者(65歳以上:1491人[37.3%]、女性:1966人[49.2%]、せん妄あり:191人[4.8%])が含まれた。全体で、解析には18223の入院患者が含まれた(65歳以上:6604人[36.2%]、女性:9301人[51.0%]、せん妄あり:878人[4.8%])。AWOLシステムは、ベースラインのAUC0.687を達成。勾配ブースティング機械学習モデルが最高値(AUC0.855)を示した。特異度を90%に設定して、モデルは感度59.7%(95%CI, 52.4%-66.7%)、陽性的中率23.1%(95%CI, 20.5%-25.9%)、陰性的中率97.8%(95%CI,97.4%-98.1%)だった。そしてNNSは4.8だった。罰則付き(正則化)回帰モデルとランダムフォレストモデルも良好に機能し、AUCはそれぞれ0.854と0.848だった。

【CONCLUSIONS AND RELEVANCE】
機械学習は、入院24時間以内に利用可能な電子カルテ情報を用いて入院に関連したせん妄リスクを推定するために利用できる。そのようなモデルは、医療者の負担を増やすことなく、せん妄予防のためのリソース利用のより正確な選択を可能にするかもしれない。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■複数の機械学習でのモデル精度の比較にROC曲線を評価するだけではなく、用途に合わせて感度・特異度を固定する事でモデルを比較していた点は良かった。
    ■患者への追加質問を必要とせず、電子カルテで収集可能なデータのみを用いた状況でありながら、既存の評価ツールよりも判別精度の高いモデルを開発しており、同モデルの使用により患者だけでなく医療者の負担も軽減できる可能性がある。
    ■一方、広く使用を促す予測ツールという面で考えた場合、選択された変数が多く(勾配ブースティング機械学習モデルで345個)、開発されたモデルの一般化可能性や外的妥当性の低さは注意すべきである。
    ■本研究では複数のモデルから様々なせん妄のリスク因子を同定しているが、特にどのリスク因子を注目するべきかや、モデルの性質を考慮した上で各リスク因子をどのように解釈すべきかについても考察にあると良かった。また、欠損値の存在を研究限界に挙げているが、欠損値補完による感度分析を行うことも検討するとよいと考えられる。


前のページに戻る