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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2023.6.28

2023年6月28日    担当:新藤

Effect of telehealth on quality of life and psychological outcomes over 12 months (Whole Systems Demonstrator telehealth questionnaire study): nested study of patient reported outcomes in a pragmatic, cluster randomised controlled trial
出典: BMJ 2013; 346: f653
著者: Cartwright M, Hirani S P, Rixon L, Beynon M, Doll H, Bower P et al.
<論文の要約>
【目的】
自宅で受ける第2世代の遠隔医療が12か月の長期間にわたって健康関連のQOL、不安、抑うつ症状に与える影響を評価する。

【デザイン】
患者報告アウトカムに関する研究(Whole Systems Demonstrator telehealth questionnaire study; baseline n=1,573)は、遠隔医療に関する実用的クラスター化RCT(Whole Systems Demonstrator telehealth trial, n=3,230)にネストされていた。一般診療所が無作為化の単位で、遠隔医療は通常ケアと比較された。データはベースライン時、4ヶ月(短期)、12ヶ月(長期)で収集された。ITT(Intention to treat)解析では、治療効果を検証した。マルチレベルモデルでは、一般診療所によるクラスター化と種々の共変量を調整した。解析は、3時点すべてで質問票を記入した759人(完全コホート)と、ベースライン評価と少なくとも1つの他の評価を記入した1,201人(利用可能コホート)について実施された。PPS(Per-Protocol set)解析では、治療効果を検証し、完全コホートおよび利用可能コホートにはそれぞれ633人および1,108人が含まれた。

【設定】
医療と福祉の統合システムが確立されているイングランドの3地域(コーンウォール、ケント、ニューハム)における、一般診療所、専門看護師、病院を通じた一次および二次医療提供元

【対象】
2008年5月~2009年12月に募集したCOPD、糖尿病、心不全の患者

【主要評価項目】
一般的な健康関連QOL(SF-12、EQ-5Dの身体的・精神的健康要素スコアで評価)、不安(6項目のBrief State-Trait Anxiety Inventoryで評価)、抑うつ症状(10項目のCentre for Epidemiological Studies Depression Scaleで評価)。

【結果】
ITT解析では、完全コホート(0.480≦P≦0.904)と利用可能コホート(0.181≦P≦0.905)において、治療群間の差は小さく、すべてのアウトカムで有意ではなかった。両群間の差の大きさは、4ヶ月後、12ヶ月後のいずれのコホートにおいても、臨床的に重要な最小限の差(標準化平均差0.3)に達していなかった。Per-Protocol解析でもITT解析を再現した。試験群の主効果(遠隔医療vs通常ケア)は、どのアウトカムにおいても有意ではなかった(完全コホート 0.273≦P≦0.761; 利用可能コホート 0.145≦P≦0.696 )。

【結論】
Whole Systems Demonstrator Evaluationで実施された第2世代の在宅ベースの遠隔診療は,通常ケア単独と比較して,effectiveでもefficaciousでもない。遠隔医療はCOPD、糖尿病、心不全の患者に対して、12ヶ月間のQOLや心理的アウトカムを改善しなかった。この結果は、遠隔医療の潜在的な悪影響に関する懸念は、大半の患者にとって正当ではないことを示唆している。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■ 通常のケア(コントロール群)とアウトカムが同等だったということは、遠隔医療でも通常ケアと通常ケアと同等の効果を持ちつつコストや労力が低減できる代替法として位置付けてよい、という解釈もできる。ただし英国では状態が安定している患者は医療機関のフォロー間隔が極端に長い(本文中でも年に1回のフォローという記載あり)場合もあり、こういった患者群にとってはむしろ遠隔医療は過介入となりコストおよび医療者や患者の負担が増大する可能性がある。
■研究開始時点で、自宅内にネット環境が整備されていた患者のみ研究対象になっており、さらに遠隔医療群では実際にトラブルなく遠隔医療を受けた患者群のみ解析対象になっているため、コントロール群と患者属性に差が生じやすく、遠隔診療群ほど異質性が失われやすかったのかもしれない。(特にPer Protocol解析で顕著)
    ■本文にもある通り、医療と社会的ケアがあまり統合されていない地域や国、また医療制度の違いによっては医療アクセス向上などにより正の影響が生じ得たかもしれない(例:アメリカの低所得者層に親和性の高いオンライン診療分野の急進)。


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