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社会医学講座 | 山梨大学医学部

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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2023.7.5

2023年7月5日    担当:齊藤

The effect of mindfulness-based stress reduction on resilience of vulnerable women at drop-in
centers in the southeast of Iran
イラン南東部のドロップイン・センターにおける社会的に弱い立場の女性のレジリエンスに対するマインドフルネスストレス低減法(MBSR)の効果
出典: BMC Women's Health volume 21, Article number: 255 (2021)
著者: Hamideh Adelian, Sedigheh Khodabandeh Shahraki, Sakineh Miri & Jamileh Farokhzadian
<論文の要約>
【背景】
女性の性労働者や依存症の女性は、あらゆる社会での医療システムに対して高コストを要する社会的に弱い立場の集団の一つだ。彼女たちは、そのライフスタイルが故に、不安、ストレス、レジリエンスの低下といった心理的な問題を抱えがちである。マインドフルネスストレス低減法(MBSR)は、ストレスや不安の治療として多くの心理療法士によって頻繁に適いられており、本研究ではMBSRが社会的に弱い立場の女性のレジリエンスに及ぼす効果について調査した。

【方法】
この準実験的研究の統計集団は、イラン南東部のケルマンにあるドロップイン・センターの、研究基準を満たした女性で構成されている。無作為抽出により、63名の社会的に弱い立場の女性を介入群(n=30)とコントロール群(n=33)にランダムに割り付けた。介入群にはMBSR介入を90分×8セッションで実施した。MBSR介入前と介入1ヵ月後のデータ収集のために、人口統計学的情報アンケートとConnor-Davidsonのレジリエンススケールを実施した。

【結果】
介入前のレジリエンススコアは、介入群(53.40±10.49)とコントロール群(54.5±9.27)で有意差はなかった(t = 0.43, p = 0.66)。しかし、介入後の介入群のレジリエンススコア(60.66±6.71)は、コントロール群(53.88±7.54)よりも有意に高かった(t = 3.58, P = 0.001).さらに、プレテストとポストテストのスコアを比較すると、コントロール群のレジリエンススコアが有意に低下していた(t = 2.81, p = 0.009)。

【結論】
MBSRの介入により介入群の社会的に弱い立場の女性のレジリエンスが向上したことから、研究者、管理者、カウンセラー、地域の保健師、精神科看護師は、女性、特に社会的に弱い立場の女性の健康増進のために関連する介入を実施することが提案される。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■背景において、社会的に立場の弱い女性のうち、特にsex workerに焦点を当てて論じている。しかし、方法において、対象集団は「社会的に弱い立場の女性」の記載のみであり、その定義や参加者のバックグラウンド、精神疾患等に関する情報が不足している。
    ■方法において、介入群35人のうち5人がセッションを完了せずに脱落したとある。しかし、この5人の脱落理由は不明であり検証等も行われていないため、対象者に偏りが生じ(セッションを完了できる人のみに偏っている可能性)、結果を過大評価している可能性がある。
    ■本研究はMBSRの介入効果について検証することを目的としているが、MBSRプロトコルの他に、実践的なエクササイズ(mindful walk、mindful eatingなど)も推奨されていた。このことにより、MBSRの介入効果を薄め、結果を歪めている可能性がある。他にも、施設で実施されているカウンセリング、メンタルヘルス、行動ケア、健康教育等についても考慮が必要だったと考えられる。また「メンタルヘルス介入が行われた」という事そのものがプラセボ的に介入群のレジリエンスを向上させている可能性も考えられる。
    ■コントロール群で1回目に比べ2回目のレジリエンススコアが低下した原因について、本ディスカッションではCOVID-19の発生時期が重なっていることを挙げている。COVID-19の影響とするのであれば、この時のイランでのCOVID-19パンデミックの状況等に関する説明やその根拠について、もう少し考察が必要だったと考える。
    ■本研究では介入群を2つのグループに分けてMBSRの介入を行っていたが、介入者によってMBSRの効果に差が生じる可能性がある。よって、介入者の経験年数や人数、ドロップイン・センターとの関係性などの明記が求められる。


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