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社会医学講座 | 山梨大学医学部

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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2023.9.6
2023年9月6日    担当:荒井

Associations between Infant and Parent Characteristics and Measures of Family Well-Being in Neonates with Seizures: A cohort study
急性症候性発作を有する新生児における乳児および両親の特性と家族の幸福感の指標との関連性:コホート研究
出典: The Journal of Pediatrics. 2020 June ; 221: 64–71
著者: Linda S. Franck, RN, PhD1, Renée A. Shellhaas, MD, MS2, Monica Lemmon, MD3, Julie Sturza, MPH2,
Janet S. Soul, MDCM4, Taeun Chang, MD5, Courtney J. Wusthoff, MD, MS6, Catherine J. Chu, MD7, Shavonne L.
Massey, MD8, Nicholas S. Abend, MD MSCE8,9, Cameron Thomas, MD, MS10, Elizabeth E. Rogers, MD11,
Charles E. McCulloch, PhD12, Katie Grant13, Lisa Grossbauer, MS14, Kamil Pawlowski15, Hannah C. Glass,
MDCM, MAS16 Neonatal Seizure Registry study group
<論文の要約>
【目的】
急性症候性発作を有する新生児の家族における退院時の幸福感の主要な側面に危険因子(リスク因子)を特徴づけ、明らかにすること。

【研究デザイン】
この前向き観察コホート研究では、急性症候性発作を起こした新生児発作登録機関の9つの小児病院から、急性症候性発作を起こした新生児の中から144組の親子が登録された。家族ごとに1人の親が、不安やうつ症状、健康関連の生活の質(QOL)、家族への影響などの尺度を含む退院時調査に回答をした。幸福度に関連する親と乳児の特徴を調べるために、項目で調整した多変量回帰分析を行った。

【結果】
退院時、親の54%が不安症状を32%がうつ症状を報告した。低酸素性虚血性脳症の乳児の親は、他の発作病因の乳児の親と比較し、より多くのうつ症状を報告し生活の質(QOL)の悪化が報告された。両親のQOLは、退院時の乳児の年齢が高いほど低かった。母親の学歴が高いほど家族への影響が大きかった。これらの違いはすべて、0.52~0.78の範囲で中等度から強めの効果があった。

【結論】
不安およびうつ症状は、新生児発作を有する乳児の両親によくみられ、何人かの両親と乳児の特徴では、両親のQOLと家族の幸福度の低下が関連している。これらの知見は、新生児発作がある乳児の両親に対するメンタルヘルスのスクリーニングとサービスを改善するための行動を呼びかけるものである。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■ 今回の研究では、研究デザインとして前向き観察コホート研究と記されている。このコホートについて調べると、生後12か月、18か月、24か月まで追跡したコホートであるため、たしかに「前向き観察コホート研究」ではあるものの、本論文で使用したデータは、入院中にリクルートされた親子について、退院時のHADS、WHOQOL-BREF、IOFなどのデータが使用されているため、コホート研究をもとにした横断研究となるのではないかと考えられる。本論文だけを読むと分かりづらいと思われたため、追跡期間やそのうち今回はどの部分のデータを使用したのか、といった一文があるとより分かり易かったように思われる。
    ■ IOF尺度と母親の学歴について、母親の学歴が高いほど家族への影響が大きかった。家族への全体的な影響は、母親の教育レベルのみと相関があると示されているが、父親の学歴との関係性はあったのか。本論文では父親の学歴や主に育児に関わるキーパーソンについての記載がなかったため、質問票に含まれていなかったのか、または含まれていたが、解析には用いなかったのかが不明であった。不安感や家族への影響を考える上では、母親のみではなく主に育児に関わる親の把握や父親の状況についての検討も重要と考えられるため、これらの関係も知りたいと思った。
    ■ 調査方法(両親への調査)について、1家族につき1人の保護者が、NICU退院間際に有効な調査手段一組を、紙、オンライン、電話、訓練されたリサーチアシスタントとの面談の中から希望に応じて実施されており、調査方法の違いによる影響も考えられるため、調査方法の違いを考慮した解析も行うとよかったのではないかと考えた。
    ■ 急性症候性発作(低酸素性虚血性脳症〔HIE〕、周産期虚血性脳卒中、頭蓋内出血〔ICH〕などの急性脳障害によって生じる新生児発作)を有する両親への医療者側の説明(病態や予後、治療などの説明)の仕方について違いがある可能性があり、それが不安症状などを生じさせている可能性も考えられる。Discussionでの研究限界にも示されているように、神経学的予後や医師とのコミュニケーションなど、両親や家族の幸福度に関連しうる出生前および出生後の要因がさらに存在する可能性も考えられる。


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