2023年11月8日    担当：小野

＜論文の要約＞

【背景】

糖尿病は特に農村地域で住民の健康を脅かす問題である。糖尿病と歯周病は相互に関連している。糖尿病患者の中での歯周病の発症における農村地域と都市地域の格差が持続している場合、糖尿病患者の中での歯周病の格差も示唆される。しかし、これに関する証拠は不足している。この後ろ向き研究は、2010 年に新たに 2 型糖尿病と診断された患者の中での歯周病の発症と治療強度における農村と都市の格差を調査することを目的としている。

【方法】

この研究は、2 つの研究サンプル、つまり 2 型糖尿病患者とそれに続いて歯周病と診断された患者を対象とした後ろ向きコホート研究である。データソースには、患者レベルの2010 年糖尿病データベース、台湾の郡レベルでの国家地理情報標準化プラットフォーム、衛生福祉省統計局のデータが含まれている。2 つの従属変数は、2 型糖尿病患者の間での歯周病の発症までの時間を示すアウトカムと、歯周病と診断された患者に対する治療強度とした。主要な独立変数は、都市地域を参照群とし、農村地域と郊外地域を示す 2 つのダミー変数である。解析には Cox 回帰モデルとポアソン回帰モデルが適用された。

【結果】

調査対象の基準を満たす患者 68,365 人のうち、49%が糖尿病と診断されてから 10 年以内に歯周病を発症した。都市部の糖尿病患者と比較して、農村地域（HR=0.83、95% CI: 0.75–0.91）と郊外地域（HR=0.86、95% CI: 0.83–0.89）の患者は、歯周病の発症率が低かった。歯周病を患っていた 33,612 人の患者のうち、農村地域の患者は歯科ケアの治療強度が低かった（農村: RR=0.87、95% CI: 0.83, 0.92; 郊外: RR=0.93、95% CI: 0.92, 0.95）。

【結論】

農村地域の糖尿病患者が歯科ケアを充分に活用していないことから、歯周病の低発症率は潜在的に未診断の歯周病を示し、治療の低強度は潜在的に満たされていない歯科ニーズを示している。私たちの調査結果は、糖尿病の結果における農村と都市の格差が持続する可能性についての説明を提供している。早期段階で歯周病を正しく診断し適切な治療を行うための政策介入は、糖尿病ケアの負担を軽減し、糖尿病の結果における農村と都市の格差を是正する可能性がある。

＜ジャーナルクラブでのディスカッション＞

■歯周病は罹患率(Incidence)ではなくて有病率(Prevalence)という表現の方が正しい。

■歯周病の治療強度は歯科治療を受けた回数で評価をしたが、回数が多いほど歯周病の重症度が高くなるという解釈になる可能性がある。本研究においては歯周病の有病率のみで評価しており重症度での評価を行っていないため、解釈については難しいのではないか。

■都市部と比較して農村地域における歯周病の有病率が低いという結果は、実態を反映していない可能性がある。歯科医療の供給不足や歯科治療に対する意識が低いことが背景としてあり、本研究での結果となっていることが考えられる。また、糖尿病においても同様なことが言える。

■治療強度の評価は歯科治療回数のカウントデータを従属変数としていることと、０回が50％ほどと多く、ポアソン回帰モデルを適用していることは理にかなっている。

■dependent(扶養家族)の収入が世帯収入ではなく個人収入を使用しているのは台湾のデータベースでは個人収入で評価している可能性があるのではないか。