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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

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2024年1月10日    担当:宮内

Constipation and Incident CKD
~ 便秘と慢性腎臓病 ~
出典: J Am Soc Nephrol. 2017 Apr; 28(4): 1248–1258.
著者: Keiichi Sumida, Miklos Z. Molnar, Praveen K. Potukuchi, Fridtjof Thomas, Jun Ling Lu, Kunihiro Matsushita,
Kunihiro Yamagata, Kamyar Kalantar-Zadeh, and Csaba P. Kovesdy
<論文の要約>
【背景】
便秘はプライマリ・ケアで最もよくみられる疾患の1つであり、腸内細菌叢の変化を介する可能性がある。しかし、便秘とCKD(慢性腎臓病)との関連についてはほとんど知られていない。

【方法】
eGFR(推算糸球体濾過量、Glomerular Filtration Rate)が60ml/分/1.73m2以上の米国退役軍人3,504,732人の全国コホートにおいて、診断コードおよび緩下剤の使用を用いて定義した便秘の状態および重症度(便秘なし、軽度、中等度/重度)と、CKDの発症、末期腎臓病 (ESRD: End stage renal disease)の発症、およびeGFRの変化との関連を、Coxモデル(時間対事象解析)および多項ロジスティック回帰モデル(eGFRの変化解析)で検討した。

【結果】
患者の平均(SD)年齢は60.0(14.1)歳、93.2%が男性、24.7%が糖尿病患者であった。多変量調整後、便秘のない患者と比較して、便秘のある患者はCKD(ハザード比、1.13;95%信頼区間[95%CI]、1.11〜1.14)およびESRD(ハザード比、1.09;95%CI、1.01〜1.18)の発生率が高く、eGFRの低下が早かった(eGFR勾配<-10、-10~<-5、-5~<-1の-1~<0ml/m2/年に対する多項オッズ比、それぞれ1.17;95%CI、1.14~1.20;1.07;95%CI、1.04~1.09;1.01;95%CI、1.00~1.03)。便秘が重症であるほど、各腎転帰のリスクは増加した。

【結論】
結論として、便秘の状態および重症度は、既知の危険因子とは無関係に、CKDおよびESRDの発症リスクおよびeGFRの進行性低下と関連している。さらなる研究により、その基礎にある機序を解明する必要がある。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■研究では便秘が腎臓の疾患へ与える影響を分析していた。腸内細菌が媒介する可能性を考察していたが、食事のデータも加えるべきであるという指摘もあった。食物繊維が多くバランスの取れた食事をとる場合と、そうでない場合では便秘になりやすいかどうかは変わるのでデータが利用可能ならば分析に利用すべきである。
    ■便秘は男性よりも女性がなりやすい一方、研究対象者は退役軍人だが男性(93.2%)に偏っているという指摘があった。研究対象者は偏っているが、退役軍人の健康問題を国家が管理するという政策へのフィードバックとして研究は有益であるという指摘があった。退役軍人の健康問題はKeren L et al (2012)など疫学研究で問題であるとされている。
    ■本研究ではログランク検定やCox比例ハザードモデルなど生存時間解析が用いられていたが、生存時間解析が可能なデータが利用できる場合、ロジスティック回帰分析に比べて時間的な経過などが分かり、時間的にいつ急激に悪化するのかなど考察できるという指摘があった。しかし、例えば小児喘息などで1歳時に発症して2歳時以降治った場合のデータの取り扱いは注意を有するという指摘があった。


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