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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2024.2.7

2024年2月7日    担当:日吉

Infertility, recurrent pregnancy loss, and risk of stroke: pooled analysis of individual patient data of 618851 women
不妊、反復性妊娠喪失と脳卒中リスク:618,851人の女性の個人患者データのプール解析
出典: BMJ. 2022 Jun 22:377:e070603. doi: 10.1136/bmj-2022-070603.
著者: Chen Liang, Hsin-Fang Chung, Annette J Dobson, Kunihiko Hayashi, Yvonne T van der Schouw, Diana Kuh, Rebecca Hardy, Carol A Derby, Samar R El Khoudary, Imke Janssen, Sven Sandin, Elisabete Weiderpass, Gita D Mishra
<論文の要約>
【目的】
不妊、反復流産、死産と初発の非致死的および致死的脳卒中のリスクとの関連を、脳卒中サブタイプ別に層別化し検討する。

【デザイン】
8つのプロスペクティブ・コホート研究の個人参加者のプール解析。

【設定】
2012年6月に設立されたInterLACE(生殖関連機能事象と慢性疾患イベントに対するライフコース・アプローチの国際共同研究)コンソーシアムに参加する7か国(オーストラリア、中国、日本、オランダ、スウェーデン、英国、米国)のコホート研究。

【参加者】
不妊、流産、死産のデータ、少なくとも1つのアウトカムイベント(非致死的または致死的脳卒中)、および共変量に関する情報があり、ベースライン時に32.0‐73.0歳の女性618,851人を組み入れ、93,119人が除外された。参加者のうち、非致死的および致死的脳卒中に関するデータを有していたのは275,863人、非致死的脳卒中に関するデータを有していたのは54,716人、致死的脳卒中に関するデータのみを有していたのは288,272人であった。

【主要アウトカム】
非致死的脳卒中は、自己申告によるアンケート、リンクされた入院患者データ、または国民患者登録によって特定された。致死的脳卒中は、死亡登録データによって特定された。

【結果】
非致死的脳卒中と致死的脳卒中の追跡期間の中央値は、それぞれ13.0年(四分位範囲12.0‐14.0)と9.4年(7.6‐13.0)であった。初発の非致死的脳卒中を9,265人(2.8%)が経験し、4,003人(0.7%)が致死的脳卒中を経験した。非致死的または致死的脳卒中のハザード比は、高血圧によって分類され、人種または民族、肥満度、喫煙の有無、教育レベル、参加研究で調整された。不妊は非致死的脳卒中のリスクの増加と関連していた(ハザード比1.14、95%信頼区間1.08‐1.20)。反復流産(少なくとも3回)は、非致死的および致死的脳卒中のリスクが高くなることが示された(1.35、1.27‐1.44、および1.82、1.58‐2.10)。死産を経験した女性は、非致死的脳卒中のリスクが31%高くなり(1.31、1.10‐1.57)、反復死産を経験した女性は、致死的脳卒中のリスクが26%高かった(1.26、1.15‐1.39)。不妊または反復死産に関連する脳卒中(非致死的または致死的)のリスクの増加は、主に単一の脳卒中サブタイプ(非致死性虚血性脳卒中および致死性出血性脳卒中)によって引き起こされたが、反復流産に関連する脳卒中(非致死的または致死的)のリスクの増加は、両方のサブタイプによって引き起こされた。

【結論】
反復流産、出産前または出産中の死亡・流産歴は、脳卒中の女性特有のリスク要因と考えられ、脳卒中サブタイプによるリスクの違いがある。これらの結果は、このような経歴を持つ女性のモニタリングと脳卒中予防の改善に貢献する可能性がある。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■脳卒中の罹患は女性のほうが多いということは日本では意外なイメージがあるが、心筋梗塞は圧倒的に男性の罹患率が高いなど、罹患率に男女差が高い疾患は存在する。政府は来年度「女性の健康」に特化した国立高度専門医療研究センターを開設する予定であるが、今後の研究では男女にリスク差がある前提で、例えば解析では男女を層別化するなど、男女を分けて結果やディスカッションを示す必要があり、ジェンダーは平等であるが、性別では身体的特徴は異なるという認識の社会を作っていく、という知見で議論していく必要がある。
    ■不妊、早産、死産を経験した女性が脳卒中リスクが高い機序について不妊症と早産、死産というくくりでディスカッションされているが、早産、死産を合わせて、妊娠は成立するがその後何らかの理由で育たないという視点で不育症として考えても良いのではないか。
    ■競合リスク(競合イベント)についての再確認。生存時間解析において、競合リスクは複数の異なる種類のイベントが存在し、最初の1つしか観察できない状況を指す。本研究の場合、非致死的な脳卒中がターゲットで、致死的脳卒中や他の理由での死亡が競合イベントとなる。死亡が発生するとその後の観察はできないため、ターゲットのイベントは観察されないことになる。そのため競合リスクの解析としてイベントごとに独立変数の影響を検討することやイベントごと発生確率を推定することで競合リスクについて検討を行う。
    ■中国カドリーバイオバンクという中国で50万人が参加している研究が参加していることには驚きがあった。カドリーバイオバンクは、英国と中国の長期的な協力によって設立され、世界最大級の前向きコホート研究を行っており、ライフスタイル、環境、遺伝的要因に関する信頼性のあるエビデンスを生成し、世界的な疾患予防、リスク予測、治療に寄与している。2018年の研究では「1日1個卵を食べると心臓病や脳卒中のリスクが低減される」ことを示した。
    ■日本では脳卒中の罹患に女性が多いという印象はあまりないが、本研究のような国際協力研究の場合、その国によって死因が異なることを考慮する必要がある。
    ■直近の参加国別の男女別死因
    ※オランダについては統計局からの手集計のため不備がある可能性があります。
    スウェーデンについてはたどり着けませんでした。
    日吉1
    日吉1



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