代数幾何的手法による表現のモジュライの構成とその周辺

 数学の1分野,代数幾何が研究分野になります。代数幾何とは,いくつかの多項式で定義された図形の性質を調べる分野です。例えば,方程式x^2+y^2-1=0 は円を表しますが,更に複雑な多項式を考えたりします。x,y といった文字は,通常実数と呼ばれる範囲で考えるのですが,代数幾何では複素数まで広げて考えることがあります。1次元,2次元,3次元だけでなく,4次元,5次元以上の図形を考えることもしばしばあります。

 群とは,ある性質を備えた演算をもつ集合のことです。構造主義の話によく出てくる数学的対象です。群が一つ与えられたとき,その群を行列によって表示しようというのが,群の表現です。

 行列とは,高校数学または大学初年次で出てくる,あの行列のことです。与えられた群の表現は,一般にいくつもあります。それではどのぐらい表現があるか,ということが問題になるのですが,それを調べるために少し変わった手法を取ります。

 群の表現1つにつき,1つの点だと考えます。別の表現1つ取ってきた場合には,別の点が1つ出来たと想像するのです。そうすると,群の表現があるだけ点がいっぱいできます。
 よく似通った表現については,対応する点同士が近い位置にあるように配置します。全く違う表現同士は,対応する点同士を遠く離れた位置に配置します。その様にして出来た点の集まりは,一つの図形をなしますので,それを「モジュライ」と呼びます。この場合,群の表現の集合から作られるモジュライですので,「表現のモジュライ」と呼ぶわけです。

 表現のモジュライは,群が異なれば,異なった図形になります。また,群の表現を考えるのに,行列のサイズによっても,異なる図形が出てきます。例えば,階数2の自由群に対する2×2のサイズの行列への表現のモジュライは,複素数の世界で言うと5次元の図形,実数の世界で言うと10次元の図形になります。私の研究は,こういった表現のモジュライがどのような図形なのか,そしてどのような性質をもつのか,を調べることです。

 群の表現自体は,物理学でもよく見られる基本的かつ重要な対象です。数学においても,いたるところに出てくる概念です。群の表現が全部でどのくらいあるのか,その全体像を調べるために,表現のモジュライはその研究手法の1つを与えてくれます。

 たとえ,我々の実生活に直接の影響を短期間で与えられないにしても,表現のモジュライという基本的な数学的対象は,いずれは,我々の社会を劇的に変化させるポテンシャルを秘めていると信じております。