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Love your neighbor as yourself

中込 さと子

成育看護学講座 (2017年12月)

助産師には、母と子の生命を護るという使命があり、なおかつ子を産み育てる過程で経験する恐れや苦悩、悲しみにも添う覚悟が必要である。
  人間には、<創造されるいのち>が、いつ与えられるのか(不妊)、いつまで生きられるのか(流産や死産または新生児死亡)、どのように生まれるか(先天性疾患)を決めることはできない。ただ待ち望むことだけができる。カトリック司祭ナーウェン著「待ち望むということ」には「待ち望む人は、いまのこの瞬間に自分を置き、この時こそ、かけがえのない時であることを信じる。また待ち望む人は忍耐の人である。今いるところに敢えてとどまり、現在を積極的に生き、そこで待つ。さらに『待つ』というのは結果に対して、開かれた態度を持つことである」とある。
 また助産師が向きあわなければならないこととして「罪責感」の問題がある。「人工妊娠中絶」である。女性とパートナーは様々な事情の中で、与えられたいのちについて悩んでいる。そこに関わる医師も助産師もそれぞれの立場をわきまえつつ対応する。
 私が助産師としてスタートを切ったのは、山梨医科大学医学部附属病院であった。当時の助産師の諸先輩方、産科医の諸先生方は、未熟な一助産師の声にも耳を傾け、内省する手助けをしてくださった。そのことが基盤となり、私は大学・大学院へと進学した。
 私は母校の恩師の縁で2002年から遺伝カウンセリングに携わる機会を得た。遺伝カウンセリングとは、相談者または家族が、生活設計上の選択を自らの意思で決定し行動できるよう、臨床遺伝学的診断を行い、医学的判断に基づき適切な情報を提供し,支援する医療行為である。相談者と担当者との良好な信頼関係に基づき,様々なコミュニケーションが行われ,この過程で心理的精神的援助がなされる。相談者は、患者またはその家族に既知の遺伝疾患(またはその疑い)がある場合、先天奇形、高年妊婦、流産の反復、催奇形物質に曝露された場合、血族結婚、若年発症のがんの家族歴がある場合、精神発達遅滞、その他の経験をした人々である。

広島大学遺伝子診療部の様々な診療科メンバー

 

 私が経験した遺伝カウンセリングの半数以上が出生前診断をめぐる相談であった。当時所属していた遺伝子診療部の基本姿勢は、1.コミュニケーションと信頼関係の維持を大前提とする、2.妊婦と夫の意思が最大限に尊重されるよう,妊婦・夫・家族の意向や価値観,意思決定における家族の力関係,妊娠・出産・育児などの体験を考慮する、3.遺伝学的情報として提供される確率は,個人によって解釈される意味が異なるという前提に立ち,医療者個人の確率に対する評価を避ける、4.「異常」という予想外の出来事に対する拒否や不安があることを前提に,提案した情報を誤解することがないよう,その心情に関心を持ち,反応を確認しながら,相手のペースに合わせて進める、5.納得のいく決定ができるよう専門情報の提供や理解を助ける為の工夫をし,また,決定後の躊躇や罪責感などに対する心理的ケアを責任持って行う、6.決断に伴って引き起こされる出来事に対してケアを惜しまず,カップルや親子,家族の体験に則してフォローする、7.胎児・妊婦・夫にとっての「最善」を検討し,チームとしての方向性や方法論を確認する、であった。

 まさに生、死、障害や病に伴う苦悩の現場であったが、同時に希望、光があることを実感した。遺伝カウンセリングを学び始めたころ、様々な医療倫理のテキストを読んだが、最もしっくりきたのが、キリスト教倫理の、Love your neighbor as yourselfであった。特に産科医療での二律背反の事象においては、どうしたら女性と胎児、双方への愛を示すことができるか生涯、問い続けなければならないだろうと思う。

 2010年に山梨大学に赴任した。遺伝医療の歴史は地域ごとに特性がある。山梨は保健師が遺伝的課題(難病や小児慢性特定疾患の一部など)をもつ住民を把握し、継続的に生活を支え、家族ケアのマネジメントを行い、当事者が生活設計上において遺伝的課題を知ろうとしたときにすぐに対応できるよう控えていて保健所の二次相談につないでくれる。また3次医療機関として大学病院遺伝子疾患診療センターや山梨県立中央病院ゲノム研究センター・ゲノム診療センターが開設され、幅広い遺伝医療体制が整いつつある。さらに社会における遺伝に関するリテラシー向上を図ることが重要であるが、県内には頑張っているグループ・個人がいらっしゃる。豊かな人的資源によって、この地に生まれ、育ち、生きてよかったと思えるための仕事が少しでもできたらと思っている。

母性看護学実習で学生たちとカンファレンス


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