重茂先生を悼む

人にはそれぞれ、自分の人生に影響を与えた人物が存在すると思う。

私にとってのそんな人物が重茂克彦先生である。

私が研究者の道を志したのは、「この方のようになりたい」と思い、そして「この方と同じ道を歩きたい」と思ったからといっても過言ではない。

私が学部5年生(獣医系は6年制)で岩手大学の獣医微生物学研究室に所属していた時、重茂先生は国立感染症研究所より助手として赴任した。

微生物学はもとより、分子生物学や遺伝学に精通し、私のような学生の取るに足らない質問にも真摯に答えてくれた。

また、お酒と音楽(ジャズ)をこよなく愛し、かつ豪放磊落な性格ということもあり、皆から慕われていた。

そんな重茂先生は、2012年5月11日、帰らぬ人となった(享年49)。脳幹出血だった。

亡くなった重茂先生からは、かすかに煙草の香りがした。今にも目を覚ましそうで、死んだことが信じられなかった。

私は泣いた。人目を憚らずに泣いた。

出棺後、火葬までは立ち会ったものの、収骨はしなかった。というかできなかった。骨になった重茂先生を見るということが、私にはどうしてもできなかった。

「今の私は重茂先生にどれだけ近づけているだろうか?」今でも時々自問自答する。そして、自分自身を奮い立たせる。 

今でも私の携帯電話が鳴って、あの優しい声が聞こえてきそうである。「あ、兼平君、岩手大学の重茂です。」と。