小脳(cerebellum)は、運動の正確さやスムーズさを調節する部位のひとつです。小脳の中でも前庭小脳(vestibulocerebellum)は、内耳の前庭迷路、眼球、頸部など身体各部位から入ってくる情報を判断し、平衡感覚の調整を行うことによって運動や運動に伴う姿勢を安定的に保つ働きをします。
前庭小脳には、片葉、小節部、虫部垂などからなる系統発生学的には比較的古い小脳の部位です。これらの部位は身体全体の姿勢とともに眼球の運動制御にも重要な役割を果たしていると考えられています。小脳には他の脳部位との解剖学的な投射結合関係によって、一般に頭部の前後方向(矢状面方向または吻側-尾側方向)に広がりをもつゾーン構造をもっていることが知られています。この解剖学的に明らかになっているゾーンが、各々どのような機能をもっているかについてはすべてが解明されたとはいえません。
現在、前庭小脳のうちの小節・虫部垂がどのような信号(情報)をもち、出力しているかを実際の小脳の神経細胞の活動から調べています。
小節・虫部垂のプルキンエ細胞の単純スパイク発射活動は、体(頭部)の前後左右に傾斜すると、細胞ごとに応答方向特異性をもつことがわかりました。各細胞の最適面を求めると、小脳正中面から内側には前後面(pitch plane)に最適面をもつ細胞が、また外側には左右面(roll plane) に最適面をもつ細胞が前後方向のゾーン状に分布していることが明らかになりました(Kitama et al. 2014)。もう一つの前庭小脳である片葉においても応答方向によるゾーンが報告されていることから、方向選択的なゾーンが少なくとも前庭小脳に共通していることが示唆されました。
重力方向を下向きとする外界の座標系が運動制御にどのような関わりをもつかを調べた。これまで視覚を安定化する視運動性眼球運動に注目し、頭部傾斜によって垂直方向(重力方向)から頭が傾いたときに運動に与える影響を調べてきた。通常の姿勢(正常頭位)においては誘発される眼球運動の方向は視覚刺激の方向と一致します。しかし、頭部を傾けた条件にすると、頭に対して同じ方向の刺激により誘発される運動方向は視覚刺激の方向と一致せず、地球の水平面方向に運動方向が近づく現象が見られます(Kitama et al. 2004)。このことから脳内に頭部の傾きに対して正常頭位における運動方向を保とうとする仕組みがあることが示唆されます。
脳卒中片麻痺患者は、身体重心が非麻痺側に偏っていることが多くみられ、歩行能力やADL(activities of daily living: 日常生活動作)能力が低いことが報告されています。その身体重心を重心動揺計で計測して身体重心を麻痺側へ無理なく偏移させる方法を調べています。