私を変えた言葉1

物になるには時間がかかる

これは、学部生の頃、研究室の技官であったO先生の言葉である。

O先生は研究室創設の時から勤めておられた、いわば研究室の「生き字引」のような存在だった。

若い頃はボクシングをされていたらしく、近寄りがたい風貌であったが、自分の息子さんよりも年下の私にも気さくに話しかけてくれた。

そんなO先生はある日私に、「お前は将来何になりたいんだ?」と訊ねた。

私は、「研究者になりたいです。」と答えた。

O先生は一瞬眉間にしわを寄せ、下を向いた後、面と向かって

「お前は向かない。」

と断言した。

私がショックを受けたのを感じたのか、諭すように、「物になるには時間がかかる。」と続けた。

これまでに色々なタイプの学生を見てきたこともあり、その人生指南(?)は辛口ではあるものの的確であった。

確かに私は、大学院生の頃は何においてもパッとせず、ポスドクの頃も目立った業績を挙げることはできなかった。

しかし私はO先生の言葉を信じ、「向かない」と諦めるのではなく、「物になるまでやってみよう」と前向きに考えるようになった。

そうして私は現在、(色々な方々に助けられつつ)一応研究者の端くれとして、この場にいる。

O先生のご慧眼に敬服するとともに感謝する次第である。