私を変えた言葉3

生活しないと研究できないよ

これは、留学先の兄弟子で、S大学の解剖学教室のO先生の言葉である。

私は妊娠した妻を置き去りにし(なんてひどい)、単身で米国へ留学した。

数か月後に研究室が引っ越すことが決まっており、最初はNew OrleansのTulane大学へ滞在した。

ハリケーンのカトリーナによる壊滅的な打撃の爪痕が所々に見られた。

短期滞在ということで、大学に併設の寮に滞在したが、周囲の治安は最悪で、夕方以降は外出すらできなかった。

ちなみに、渡米1週間後に銃声を耳にした。

ルームメイトは全く掃除をせず、時々友達を数人引き連れては夜中まで騒ぐ始末。

車も持っていなかったため、日本食を買いに行くこともできず、近所のドラッグストアで買ったインスタントラーメンが主食の日々が続いた。

「慣れるまでの辛抱」と自分に言い聞かせたが、ボディーブローのように日々ストレスは蓄積した。

そんな様子を見かねたO先生は、私に言った。

「研究しなくても生活できるけど、生活しないと研究できないよ。」

程なくTexas A&Mに移り、車も購入し、生活環境は格段に上昇した。そして、研究室での生活も楽しくなった。

まずは生活の基盤がしっかりしていないと、研究に専念できない。当たり前のことだが。

それから私は、(帰国後も)差し迫った仕事の時以外は、無理に残業をせず、家族との時間も確保し、規則正しい生活を(できるだけ)心掛ける様にしている。