私を変えた言葉17

北上川に浮いてもらうぞ

これは、私の高校時代の国語のS先生(故人)の言葉である。

S先生は色黒で恰幅が良く、一見、ヤ○ザに見えなくもなかった。

そんなS先生の授業は、毎回異様な緊張感に包まれており、予習を欠かしたり、答えに窮した生徒には、

「お前、北上川に浮いてもらうぞ!」

と容赦ない叱責が飛んだ。

しかし、その授業は長い経験と深遠な知識に裏打ちされており、私は毎回感銘を受けた。

S先生の授業では上記の他、

「私の授業で『わからない』という答えはない。」、

「お前はバカじゃない。定冠詞がついて『The バカ』だ。」、

「次、答えられなかったら死んでもらうぞ。」

等々、今でこそ問題になるであろう発言のオンパレードであった。

ちなみに、S先生宅の電話番号「92-4064」は、語呂合わせで「国の指令無視」となり、S先生は「俺は国の指令を無視する男だ。」と豪語されていた。

そんなS先生だったが、(少なくとも私は)悪い印象は抱いていない。

というのも、S先生は、私のような「箸にも棒にも掛からない」生徒も決して見捨てることはなかった。

休日の夕方には、気に掛けている数人の生徒に、「Sだが、今日一日の行動を1分以内で説明しろ。」と電話をし、「よしっ。その調子で頑張れ。」と叱咤激励されていた。

今思えば、「北上川に浮いてもらうぞ。」はS先生なりの愛情表現だったのかも知れない。

余談だが、S先生は定年後、盛岡市の某私立高校の校長に就任された。

そして、その高校に特別進学コースを設置し、一気に県内有数の進学校へのし上げる等、辣腕を振るわれた。

そんなS先生の葬儀は、県内外の教育関係者の供花で溢れていたそうだ。

私の心には、S先生の「兼平、お前北上川に浮いてもらうぞ!」が今も響いている。