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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2006.02.08

2006年2月8日 担当:K. S

Marriage still protects pregnancy
~ 結婚が、依然、周産期予後の悪化を防いでいる ~
出典: BJOG: an International Journal of Obstetrics and Gynaecology
October 2005, Vol. 112, pp. 1411‐1416

著者:Kaisa Raatikainen, Nonna Heiskanen, Seppo Heinonen.
<論文の要約>
目的:
婚外妊娠は早産、低出生体重児、SGAなどのリスクであるという報告がある。
近年、高い婚外妊娠率となる一方で高水準の母体ケアが行われるようになった1990年代において、全妊娠人口を対称に婚外妊娠のリスクファクターを評価すること。

デザイン:
病院ベースコホート研究(1989年~2001年)

実施場所:
フィンランドの大学病院

対象者:
単胎妊娠で、婚姻、同棲状況がわかっている25373人

主たる指標:
SGA、早産、低出生体重児

結果:
対象者のうち67.5%が結婚していたが、32.5%は結婚しておらず、そのうち24.2%は同棲していた。
結婚していないことは周産期予後に強い影響を持つ社会的不利と特定のリスクファクター、雇用されていないこと、喫煙および過去の妊娠中断、といったことに強く関連していた。
結婚していない女性は、SGAでは45%の差、早産では17.5%の差、低出生体重児では26%の差をもって有意にリスクが高い結果となった。
悪い妊娠予後について、全ての結婚していない女性、同棲女性、単身女性と分類し、多変量解析を行ったところ、SGAに対しては1.11、1.11、1.07というオッズ比になり、低出生体重児については1.17、1.15、1.21であり、早産については1.15、1.15、1.29であった。

考察:
結婚していない女性では若年妊娠、失業している、喫煙しているといったリスクについては、結婚している女性より高い傾向を示したが、好ましくない参加既往症や慢性疾患についてはリスクが低い傾向を示しており、今回の結果は過小評価されたものだろう。

今までの研究においては、公的な登録を利用して行ったものが多かったが、これらでは母体の詳細な情報が得られていない。
また、詳細な情報を収集したものではサンプルサイズが小さいことが多かった。
今回の研究は、母体の詳細な情報を得た上で大きなサンプルサイズを維持しており、その点で過去の研究より意義がある。

今回の研究の限界としては、3次の周産期施設であり、一般人口よりも有害な妊娠予後の割合が高い可能性がある。
また、妊娠中でも調査以降に婚姻状態が変化したものを追跡できておらず、そのバイアスが生じている可能性がある。

結婚していることによって、性行動のリスク(感染症)が減っているという理由がひとつ考えられる。

結婚していないことそのものが、このようなリスクになっているその他の説明としては社会的支援、心理的なストレスなどの関連が考えられる。

結論:
1990年代において同棲が既に一般的なものになっているにもかかわらず、婚外妊娠は全体で20%悪い周産期予後の増加に関連しており、無料の母体ケアはこれらのリスクを打ち消すほどの影響はなかった。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>

・データそのものについて
日本に比べてフィンランドでは、妊娠中の喫煙率、飲酒率ともに低い。
低出生体重児の割合も日本より低い→出生体重が全体的に大きい(人種差)。

・多変量解析について
ステップワイズ法を用いているが、全ての従属変数について行ったのか?
→表から推測すると、メインのアウトカムについてステップワイズを行ってそれ以外の変数にはそれによって選択された独立変数を選択したことが伺える。
SGA、早産、低出生体重児は相互に関連が強いために、同時にモデルに投入すると調整しすぎてしまうことになるために、それぞれについてモデルを作ったことが考えられる。

・社会経済的なデータ(収入など)が少ない。これらがあればより詳しい解析ができるかもしれない。また、保健サービスその者が無料であってもそれ以外の生活についての経済的な差が、このような結果を招いている可能性がある。

・無料の母体ケア、全ての人が受けられるとあるが、その具体的内容に触れていない。もしかしたら、それぞれの人にとってサービスそのものの受け取り方などが違う可能性がある。

・「結婚していないことが妊娠予後にとってリスクとなる」 このことをどのように公衆衛生に活用していくか?
→結婚すればいい、というのではなく、結婚していない人にはこのようなリスクがあるということを前提に、どのような支援を行うかを考えていく必要がある。
また、結婚することによって社会的支援、心理的なストレスの問題などが解決する可能性が高い、ということは情報提供してもいいかもしれない。

・結婚していないことがリスクになるということは、妊娠を喜ばないこと(妊娠早期のストレス)が低出生体重児のリスクであるということと、相互に関連している事実かもしれない。

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