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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2006.04.12

2006年4月12日 担当:朱 佐藤 近藤

Credit program outcomes: coping and nutritional status in the food insecure context of Ethiopia.
~ 金融プログラムへの参加と、栄養状態および食料充足状況:エチオピアでの研究 ~
出典: Soc Sci Med 2005.60:2371-82

著者:Doocy S et al.
<論文の要約>
背景:
相次ぐ干ばつ等により、国連加盟国中でも最も発展の遅れた国であるエチオピアにおいて、人道援助に頼らない経済的自立を達成する手段として注目されている「マイクロファイナンス」プログラムが行なわれている。本研究は、(1)干ばつや食糧不足に対処する能力(coping capacity)を調査し、(2)マイクロファイナンスプログラムの成果を明らかにすることを主な目的としている。

方法:
WISDOMはエチオピアにおけるマイクロファイナンスの主要な運営機関である。
2003年5月、エチオピアの中でも、干ばつの被害が大きく、WISDOMがよく機能している地域であるAdama及び、Sodoの農業地帯において、819家族からなる3つの横断的研究グループが編成された。
新たにプログラムに加わった群(incoming clients)、数回のクレジットプログラムを終了している群(established clients)および、同地域から選んだコントロール(community control)とを、横断研究デザインにより比較した。

結果:
どの参加グループおいても対応能力増加は認められなかった。これは、プログラムへの参加が、それぞれの家計水準において、対処能力に対する影響がなかったことを示唆している。
すべての参加者を含めて検討したところ、男女間において上腕の中央周囲径の平均値(栄養失調の判定)には差が認められなかった。
干ばつの被害の強いSodoに限定して解析したところ、女性とその小児において、プログラムへの参加者はコントロールと比較して栄養状態が有為に良好であった。
コントロール群の栄養失調オッズは、established clients群に比べて3.2(95%信頼区間:1.1-9.8)であった。
また、同地域では、女性が世帯内においてプログラムのクライアントとなっている場合、男性がなっている場合と比べてコントロール群に対するプログラム参加の効果は、世帯全体で良好であることが示された。
女性のクライエントに比べて、男性のクライエント、および地域コントロール群では、食糧援助を受けるオッズがそれぞれ1.94、2.08と有意に高値を示していた。

結論:
女性がクライアントとなっていた場合、食料援助を受けずにすんでいた、という結果はバングラデッシュ等での先行県境との結果と一致しており、マイクロファイナンスプログラムへ参加することが、干ばつや食料難に対応する能力を向上するために、有効であることを示唆している。


<参考>
マイクロファイナンス:microfinance

バングラデッシュで始まった、無担保少額融資活動であるマイクロクレジット(microcredit)の応用形。主に、社会的弱者である女性を対象として、5人程度のグループに対して、少額の融資を行い、グループメンバー全体の責任において、融資額を返還した場合、次の融資が受けられる。
エチオピアのWISDOMプログラムは、アジスアベバに本拠を構え、15支部、12157人のクライエントをもつ。年間2055873ドルを融資している。25%が女性。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
女性がクライエントの場合と、男性がクライエントの場合で、効果に違いがあるのはなぜか?
→エチオピアの文化的背景を考察する必要がある。バングラデッシュのように女性が社会的にも、世帯内においても弱者である場合は、そこをエンパワーメントすることの効果は理解できる。

この結果をユニバーサルに解釈できるのか?発展国に対しては当てはめることはできるのか?
→母集団が自然災害の多く、発展の遅れているエチオピアの農村地域住民である。自然災害に常にさらされている、一般の銀行組織へのアクセスが不可能、といった条件がそろわないと、当てはめられないだろう。発展国については社会状況が全く異なるため、現時点では当てはめはできない。日本沈没のような事態にでもなったときは当てはめられるかもしれない・・・。

識字率も高くない(7割台)なか、大変な努力で行なわれた研究だ。今後の足がかりとするための重要な研究かもしれない。

一方、限界も大きい。横断研究である点が最大の限界点であり、仮説を提示するにとどまる。近所の同様の経済状態のコントロールを得て行なった研究、とされているが、そこの選択バイアス(参加したくないのか、参加できない理由があったのか?)を否定できない。



 ジャー吉:「パチンコで2万円いかれた~今月の食費どうしよう…」

 ナル美:「ふふん、自業自得ね。誰も助けてくれないわよ。」

 ジャー吉:「マイクロクレジットから借りられないかな?」

 クラ坊:「ばぶー! (ギャンブルのためには貸しません!)」


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