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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2006.05.24

2006年5月24日 担当:李、薬袋、鈴木

Adiposity as Compared with Physical Activity in Predicting Mortality among Women
~ 女性の死亡率予測における肥満と身体活動の比較 ~
出典: The new england journal of medicine 2004;351:2694-703.

著者:Frank B.Hu,M.D.,Walter C.Willett,M.D.,Tricia Li,M.D.,Meir J.Stampfer,M.D., Graham A.Colditz,M.D.,and JoAnn E.Manson,M.D.
<論文の要約>
背景:
身体活動の程度がより高いことで、肥満に関連する死亡リスクの上昇が相殺されるかどうかについて、議論が続いている。

方法:
1976年に30~55歳で、心血管疾患と癌が認められなかった女性116,564例を対象に、体格指数および身体活動と死亡との関連性について検討した。

結果:
24年の追跡期間中に、10,282 例が死亡した。うち2,370例は心血管疾患、5,223例は癌、2,689例はその他の原因であった。
死亡率は、喫煙したことがない女性で、体格指数の値が高くなるにつれ単調増加した(傾向性のP<0.001)。参加者全員を合せた解析では、身体活動の程度に関係なく、肥満からより高い死亡リスクが予測された。
身体活動の程度がより高いことは、あらゆる程度の肥満で有益であると考えられたが、肥満に関連する死亡リスクの高さは解消されなかった。
死亡の多変量相対リスクは、痩せていて(すなわち体格指数25未満)、活動的な(運動時間、週当り3.5時間以上)女性と比較した場合、痩せていて活動的でない女性では1.55(95%信頼区間1.42~1.70)、肥満で(体格指数30以上)活動的な女性では1.91(95%信頼区間1.60~2.30)、活動的でない肥満女性では2.42(95%信頼区間2.14~2.73)であった。
成人期のわずかな体重増加でさえも、身体活動とは独立して、より高い死亡率と関連していた。
非喫煙女性において、過体重(体格指数25以上と定義)と身体活動の不足(運動時間、週当り3.5時間未満)の組み合せが、すべての早期死亡の31%、心血管疾患による死亡の59%、癌による死亡の21%を占めると推測される。

結論:
肥満の程度の増加と身体活動の減少は共に、死亡の強力かつ独立した予測因子である。

考察:
高い身体活動は肥満による死亡を減少させないことが明らかになった。またやせていないことは身体活動の低さと相互に作用しないことが明らかになった。最も死亡率が低かった群はやせていて活動的な女性であった。身体活動の有無に関わらず、成人期の体重増加は死亡のリスクである。

肥満が死亡の増加に明らかに関連している一方で、中程度の過体重については明らかな結果が得られなかった。これまでの知見ではBMIとさまざまな疾患との関連が明らかになっているが、疾患の結果としてのBMIという側面もあり、なかなか正しい評価が出来ていない。今回は非喫煙者の女性に限って、BMIと死亡との間に関連を認めた。われわれの結果は以前の研究結果と一致しており、喫煙によって効果に影響が出ることも明らかとなった。非喫煙者においてはBMI22から23.4が最も死亡率が低かった。

心血管疾患について、身体活動との間にさまざまな研究がなされているが、これについても、心血管系疾患があるためにBMIが低下したり、運動が制限されたりといった逆の関連も認められるため、結果が一定ではない。

今回の研究では、低、あるいは高身体活動群においては、過体重と死亡率に関して逆の関連が認められているため、高い身体活動が脂肪の増加に関連した死亡増加を減少させるという仮説をサポートしていない。太っていて活動的な女性は全体の2%しかおらず、やせていて活動的な女性の2倍死亡率が高い。

測定誤差が帰無仮説に影響しているかもしれない。さらに太っている参加者は身体活動を過大に申告しているかもしれない。しかしながらDMや冠動脈疾患について身体活動が予測因子となっている過去の報告があるため、妥当であろう。定期的にフォローアップしたことで、測定誤差を減少するだけでなく、身体活動の変化も考慮することができた。

われわれのデータは女性だけから得ているが、男性の知見とも一致している。

このコホートは白人の看護師を対象としているため、社会経済的なファクターはほぼ均一で、内的な妥当性は高いと考えられる。しかしながら、他の人種、民族には応用できないかもしれない。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
この研究は、24年間追跡したthe Nurses’health StudyからのBMIと死亡率の関連を、高いレベルの身体活動が減じているかを検討するために、一貫性をもたせた解析を行っている。この手法は大変勉強になるため着目したい。

・疾患による体重の影響を除くために、ベースラインにおけるBMIを用いて解析し、1976年のBMIから、女性を9つのカテゴリーに分け、18歳時の体重と1980年の体重変化によって5つのカテゴリーに分けている部分は参考になる。

・死亡の相対危険はBMIのreference categolyとそれ以外のカテゴリーで計算し、年齢調整解析は5歳間隔、Mantel-Haenszel検定を行い、Cox比例ハザードモデルを用いて、年齢とその他の潜在的な交絡因子、例えば喫煙、アルコール、閉経、ホルモン補充療法、心筋梗塞の家族歴を調整している。死亡をend pointにした研究としては、モデル的である。

・死亡率に影響する、身体活動とBMIの複合的な効果の検証において1980年をベースラインとした部分は、非常に長期のコホートで解析方法を学習できた。

・長期にわたる身体活動レベルを正確に判定し、測定誤差を抑えるために、2年ごとに追跡した中程度から高い強度の身体活動の累積平均時間を用いている。この測定誤差を抑えるための方法は正確性の担保をするための方法として重要である。

・非飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比と、遊離脂肪酸と食物繊維を調整し、尤度比法を死亡率に関連している身体活動と肥満の相互作用の検定をすることは、重要な手法であると思う。

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