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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2006.09.06

2006年9月6日 担当:鈴木

Periodontal disease and adverse pregnancy outcomes: a systematic review.
~ 歯周病と妊娠予後:システマティックレビュー ~
出典: BJOG. 2006 Feb;113(2):135-43
著者:Xiong X, Buekens P, Fraser WD, Beck J, Offenbacher S.
<論文の要約>
背景:
最近の研究では、症状がない・持続的な感染の原因としての歯周病が、全身的な炎症反応を引き起こし、そのことが早産、低出生体重児、流産、妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)などのリスクを上昇させると示唆されている。
妊娠中毒症と早産は、母体または周産期死亡や罹患の大きな原因である。これらに関する特定の病因についてはいまだ明らかになっていないものが多く、介入を目的とした、早期の予測因子やリスクファクターはほとんどない。
歯周病は、治療・予防が可能な疾患であり、歯周病が有害な妊娠予後の独立したリスクファクターであることを確認することは、公衆衛生上重要である。
妊娠前あるいは妊娠中に歯周環境を改善することで、有害な妊娠予後を予防、あるいは減少させ、ひいては母体や周産期の死亡・罹患を減少させることができるかもしれない。

目的:
歯周病と有害な妊娠予後の関連を示す根拠が存在するかどうかを検討すること。

検索方法:
MEDLINEなどの検索データベースから出版されている研究を検索した。
最初に歯周病、歯肉炎、歯周炎の各用語と、妊娠週数、出生体重、早産、低出生体重児、妊娠、流産、SGA、妊娠中毒症、子癇、高血圧などの用語をクロスさせて検索した。
それら選択した文献の参考文献のレビューも行った。
以下の基準で文献を選択した。
(1)妊娠している女性を比較している研究(ケースコントロール、横断研究、コホート研究、非無作為化比較試験、無作為化比較試験)
(2)いくつかの臨床的な歯周病indexのうち少なくとも一つを用いて歯周病を定義していること
(3)目的変数として、早産、低出生体重児、妊娠週数、SGA、出生体重、流産、妊娠中毒症を用いていること、である。
データ収集および解析:オッズ比、相対危険をそれぞれの研究から引用・計算した。二つの臨床試験からは両者をまとめた結果について検証できたが、観察研究については歯周病や妊娠予後についての定義が研究によって異なるため、それぞれの結果を一つにまとめることはできなかった。

結果:
25の研究(13:ケースコントロール、9:コホート研究、3:介入研究)を抽出した。それぞれの研究は、早産低出生体重児、低出生体重児、早産、妊娠週数による出生体重、流産、妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)を目的変数としていた。それらのうち、18の研究は歯周病と有害な妊娠予後との関連を示唆していた(オッズ比は1.10から20.0)。
また7つの研究は関連を認めなかった(オッズ比は0.78から2.54)。
3つの臨床研究では、口腔予防や歯周治療が早産低出生体重児を57%減少させ(相対危険0.43;95%信頼区間0.24-0.78)、早産を50%減少(相対危険0.5;95%信頼区間0.20-1.30)させるとしていた。

著者の結論:
歯周病は有害な妊娠予後のリスクを上昇させることと関連しているだろう。しかし、そのことを確認するために、より厳密な方法を用いた研究が今後求められる。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
・妊娠中は、妊娠悪阻の影響などで、口腔環境が悪化する。そのメカニズムとしては、ホルモン環境の変化、細胞性免疫の変化などが示唆されている。

・わが国では妊婦健診時に腟分泌物の培養検査などを行っているため、膣炎など、生殖、尿路系の感染症による影響を比較的コントロールできるかもしれない。ただし、抗生物質の使用などはしっかり情報を得ないと、バイアスがかかる可能性がある。

・歯周病の定義は、まだ統一されたものができていない。厚生労働省が6年に1回行っている、歯科疾患実態調査でも、歯周病の状況として、歯周ポケットが4mm以上という所見を用いているが、国際的なものとは一致していない可能性がある。

・日本では、ケースコントロールぐらいのレベルでしか検討が行われていない。わが国でも今後、しっかりとした疫学調査を行う必要性がある。

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