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国立大学法人

山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

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2006年9月20日 担当:

Do bullied children get ill, or do ill children get bullied?
A prospective cohort study on the relationship between bullying and health-related symptoms.
~ いじめられる子どもが病気になるのか、病気の子どもがいじめられるのか?前向きコホート研究から~
出典: Pediatrics 2006;117(5):1568-1574
著者:Fekkes M, Pijpers FI, Fredriks AM, Vogels T, Verloove-Vanhorick SP
<論文の要約>
はじめに:
多くの国で小中学生の仲間によるいじめが見られ、国や定義によってその数は異なるが、8~30%と報告されている。頭痛、腹痛、おねしょ、不安、うつなどの症状と、いじめとの強い関連を指摘している研究もあるが、研究の多くは横断研究で関連を示したのみであり、直接的な因果関係は述べていない。
疑問は、これらの健康症状はいじめの前に起こるのか、いじめはこれらの健康症状の前に起こるのか、ということである。
我々の知る限り、いじめと特別な精神的健康問題(腹痛、おねしょ、頭痛など)の関係について調べた縦断研究はない。いじめが健康問題に先行するのか、健康問題がいじめに先行するのかを知ることは、健康問題の予防に役立つだけでなく、いじめの防止にも役立つ。
この研究は、①年度初めにいじめに遭った者は、同じ年度の末に健康問題が増えるリスクが高まるかどうか、②年度初めに健康問題がある者は、同じ年度の末にいじめの被害者になるリスクが高まるかどうか、の2点に言及することを目的とした。

方法:
対象は、いじめに関する縦断研究のコントロールグループとして参加し、いじめをなくすことを学校方針として実践しているオランダの18小学校。9-11歳の高学年3学年に、通常日程時のクラスルームの時に、調査用紙に記入してもらった(1999年10・11月と2000年5月)。調査用紙はいじめ(Olweus Bully/Victim Questionnaireのオランダ版)、健康症状と不安(KIVPA)、うつ(Short Depression Inventory for Children)、他の健康に関すること、フェイスシートから成る。
「いじめ」は国際的に使われているOlweusらによる定義「他の一人もしくは複数の生徒が-意地悪や不愉快なことを言ったりののしったりする;無視したり仲間はずれにする;物を取り上げたり壊したり隠したりする;叩いたり押したり押しのけたりする;嘘をついたり噂を広めたり嫌なことを書いたりすること。これらが両者で同等に行われている場合やけんかはいじめとはしない。」を用いた。
SPSS version11を用いた。

結果:
1597人が対象となり、1552人(97%)が年度初めの1回目の調査に参加した。1118人(70%)が年度の初めと末の2回の調査に応じ、それを分析対象とした。
49.7%が男子で平均年齢10±1.1才。年度初めには14.6%が、年度末には17.2%がいじめに遭っていた。
年度初めにいじめに遭っていた者は、同年度内に新たに健康問題が生じるリスクが有意に高く、特にうつ(OR:4.18,CI:1.87-9.36)、不安(OR:3.01,CI:1.72-5.25)、おねしょ(OR:4.71,CI:1.46-15.23)、腹痛(OR:2.37,CI:1.17-4.82)、緊張感(OR:3.04,CI:1.64-5.65)でオッズ比が高かった。いじめと腹痛は女子で強い関連を認めた(女子OR:4.98,CI:2.17-11.43、男子OR:0.34,CI:0.04-2.66)。
年度初めにうつ(OR:3.41,CI:1.34-8.69)、不安(OR:1.96,CI:1.11-3.46)、食欲不振(OR:2.11,CI:1.16-3.81)があった者は、年度末にいじめられるリスクが高かった。他の症状は明らかなリスクではなかった。睡眠問題だけは、女子より男子にいじめと強い関連があったが、有意ではなかった。

考察:
年度初めにいじめに遭っている者は、同年度に新たに健康問題が生じるリスクが高まることが明らかになった。このことは、いじめによるストレスは身体・精神的健康問題を引き起こすという仮説を支持した。
年度初めにうつや不安がある者は、新たにいじめに遭うリスクが高まることも示した。このことから、うつや不安がある状態の者は攻撃的な仲間にはより脆弱に見えていじめに遭いやすい、いじめられている子どもは脆弱性を表出しており攻撃性のある子どもをひきつけてしまう、不安やうつによって自己主張できないことでいじめに遭いやすくいじめられた時に耐えてしまう、不安やうつのある子どもは他の子どもがいじめとは思わない体験もいじめられていると特徴付ける傾向がある、といったことが考えられた。
本研究の長所は、症状を幅広く見ていることと、縦断研究であることである。しかし、データは子どもの自記式によるものなので、一般的により問題視して回答する傾向があるという潜在的問題があるため、結果は過大評価されているかもしれない。特にうつの子どもは、物事をネガティブに捉え、健康問題や否定的経験を報告する傾向があるかもしれない。この点から、いじめに遭っている子どものうつの関連が特に高くなっていることに注意する必要がある。

結果1:いじめは健康問題に先行している
→学校でのいじめの防止は子どもが健康問題を持つことの防止になることを示唆

結果2:うつや不安のような健康症状を抱えている子どもはいじめに遭うリスクが高い
→いじめは子どもがうつや不安に対処しようとすることに対して悪影響があるので、子ども達にいじめに対して脆弱にならないようにソーシャルスキルを教えることが重要


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
・対象を小学生(この年代)で研究する意義は何かを述べて欲しい。
 →なぜその集団を選択したかは明確にする必要がある。
・小学生を研究対象とする場合は、同意のとり方はどうするのか?
・対象は小学校18校だが、社会経済的背景の違いはいかがなものか。
・交絡因子とも考えられる性格特性も、合わせて見た方がよかったのではないか。
・研究対象は通学している小学生だったが、オランダの不登校事情はどのようなものか。
 (本研究の目的を達するためには支障はなかったかもしれないが)
・全体的に、解析はしっかり層化もされており、限界点も述べられており、 まとまっていた文献だったのではないか。

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