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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

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2006年10月18日 担当:古屋、朱

Lifestyle changes and beliefs regarding disease severity in patients with chronic hepatitis C
~ 慢性C型肝炎患者のライフスタイル変更と疾患重症度の認識 ~
出典: Journal of Viral Hepatitis Volume 13 Page 482 - July 2006
著者:L.Castera, A.Constant, P-H.Bernard, V.de Ledinghen and P.Couzigou
<論文の要約>
序論:
患者の病気についての理解は、メディカルケアの要請やQOL、医学的助言へのコンプライアンスに多くの影響を及ぼす。また慢性疾患についての重症度の理解、信念、関心は、患者の医学的状態をコントロールするための態度や行動に大きく影響するかもしれない。AIDSやがん患者については、健康行動や性生活、食習慣の変更を含む、ライフスタイルの問題について、取り組まれている研究が多い。しかしまだ慢性C型肝炎(CHC)患者におけるライフスタイル変更についてのデータはない。

目的:
慢性C型肝炎患者(CHC)の大型コホートにおける病気の重症度についての認識とライフスタイル変更を調査すること。

方法:
慢性C型肝炎ウイルス(HCV)感染患者(n=185)を対象とした。非代償性肝硬変、B型肝炎あるいはHIVとの重感染、今現在精神的障害あるいは躁病である患者、明らかな知的障害、フランス語でのコミュニケーション不能な患者は除外した。この対象に対し、以下について質問した。Beliefs regarding chronic hepatitis C(C型肝炎についての認識:13項目)、疾患重症度の認識の程度(ヴィジュアルアナログスケール(VAS):0-100)、State Trait Anxietry Inventory(STAI-Y)(特性不安:20項目)に加え、Lifestyle changesについて:C型肝炎診断以降のライフスタイル変更(4領域)(性生活、食生活、アルコール消費量、タバコ消費量)。
また、単変量解析においてライフスタイル変更に有意に関連した変数の独立した影響について、多重ロジスティック回帰分析により評価した。多変量モデルには、単変量解析で有意であることが明らかとなった変数(P値<0.10)および、交絡因子として抗ウイルス療法を投入した。

結果:
単変量解析の結果、性生活の変更は男性であること、強い不安があることに有意に関係していた。また食生活の変更は女性であること、高年齢であること、病気の重症度の認識や不安スコアが高いことに有意に関係していたが、BMIとは関係がなかった。更に教育レベル、診断からの時間の経過、感染経路、組織学的重症度には、ライフスタイル変更への影響がみられなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果、男性であり、病気の重症度の認識が高い人、不安が強い人が性生活を変更しやすく、高年齢であり、不安が強い人が食生活の変更をしやすいようであった。

結論:
本調査の結果から、CHC患者の多くが、不要な食生活の変更や性生活の制限を取り入れていた。これらのライフスタイル変更は、実際の病気の重症度には関係していなかったが、不確かな将来についての不安や病気の認識に関係していた。これらの因子は、CHC患者が、社会において、ドラッグの使用や逸脱行動によってCHCに罹患したと認識されているためにネガティブな固定観念をもっていることに影響しているかもしれない。
また我々の結果は、患者-医師間のコミュニケーションの重要性も示唆している。CHC患者は、診断時にメディカル・プラクティショナーからほんの僅かな情報を得ているにすぎないという、我々の結果を支持する先行文献がある。それ故、患者にみられたライフスタイル変更は、誤った医学的情報を得た結果によるものとも考えられる。
しかし、医師が提供した情報を評価してはいないが、医学的助言以降、ライフスタイルを変更したのは、ごく少数の患者のみであり、この仮説はなさそうである。
患者が、適切で入手可能な情報を得ることを保証することは、肝臓専門医の責務である。病気についての適切で、新しい教育的資料を提供すること、質問や話し合いの時間をもうけ、注意深く傾聴することがCHC患者の情報ニーズ充足に有益であろう。
結論として、C型肝炎診断は患者のライフスタイル変化に重大な影響を及ぼしており、性生活や食生活における不要な制限を避けるための患者カウンセリング改善のニーズが示唆された。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■調査方法をProspective studyと述べているが・・・
⇒ベースライン、調査期間など時間経過が述べられていない。CHC診断はいつ行われ、いつからの変化を測定しているかが不明であり、結果、思い出しによる回答なのか、客観的なデータなのかも不明瞭となってしまっている。

■問うている“Lifestyle changes”は医学的に必要なものなのか?
⇒必要な制限、不要な制限の十分な理解がないのが実情のようであり、どのように実施しているのかも不明である。本調査は、QOL維持のために何が必要かのベース(実態)を知るための基礎的調査と位置づけられるのではないだろうか。

■“changes”の内容、程度に着目して分析する必要はないのか?
⇒“changes”の内容や程度にばらつき、バリエーションのある集団を一くくりに見てよいのだろうか?ベースラインでの調整の必要があるだろう。
⇒“Lifestyle changes”として性生活、食生活を取り上げている根拠が曖昧である。AIDSやがんなどの先行結果を参考に検討しているのであろうが、CHCについては、まだバックグラウンドの把握が十分ではなく、アウトカムをどこにおいて良いかが明らかでない現状なのだろう。

■テクニカルタームの使用について “beliefs”
⇒ 調査に使用しているBeliefs regarding chronic hepatitis C の下位項目は“CHCの長期アウトカム”、“潜在的な長期合併症”、“病気の重症度に関連する因子”で構成されており、疾患や重症度についての知識を問う内容が含まれている。心理学の領域では、「知識」を含むこともあるが、“beliefs”よりも “knowledge”の方が相応しいのではないだろうか。

■不安と偏見との関係について。本調査での不安は何を意味しているか?
⇒ 不安は、疾患そのものによるものなのか、あるいは、その疾患が社会の中におかれている状況によるものなのかが不明。考察では、不安への偏見の影響についても触れられているが、それについては調査されていない。社会が病気について持つイメージや偏見についても考慮した方がいいだろう。

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