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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

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2006年12月6日 担当:鈴木

Bone mineral density in Norwegian premenopausal women
~ ノルウェーの閉経前女性における骨塩量(濃度) ~
出典: Osteoporos Int. 2005 16: 914-920
著者:Kolle E, Torstveit MK, Sundgot-Borgen J.
<論文の要約>
はじめに:
ノルウェー女性についての骨塩量に関するデータは存在しない。
スカンジナビア半島における骨折率は、ヨーロッパやオセアニアの国に比べて高く、ノルウェー人はヨーロッパの中で閉経後の女性における骨塩量が最も低い国である。
骨塩量のピークは遺伝、年齢、性別、人種などによって決定される。しかしながらその他のリスクファクターも骨塩量に影響し、これらは対象とする人々によって大きく異なるだろう。
この研究では、閉経前のノルウェー人女性において、
1)年齢群ごとの骨塩量を求めること
2)低骨塩量の頻度を求めること
3)骨塩量とそのリスクファクターとの関連を求めること
を目的とした。

方法:
この研究は3段階の研究からなっており、PartⅠは質問紙調査、PartⅡはDXAによる骨塩量測定、PartⅢは摂食障害の調査であった
全ての13-39歳のノルウェー人女性を対象に、無作為抽出を行い、対象者の70.2%から質問紙に対する回答を得た。
運動に関しては、重量負荷のある運動と、ない運動に分けた。
PartⅡとⅢについては、PartⅠのデータから300人を抽出し、妊婦を除外するなどして、145人(48%)が参加した。
骨塩量はDXAを用いて、全身、腰椎(L2-L4)、股関節(全大腿骨、大腿骨頚部、大転子)を測定した。低骨塩量についてはZ scoreで-2.0以下のものと定義した。

結果:
Table 1:参加者の年齢群別平均値(年齢、体重、身長、BMI、身体活動量)
Figure 1:年齢群別の各骨塩量測定値
Table 2:アメリカ・ヨーロッパにおける基準値と、今回の研究データ、それぞれに基づく低骨塩量の割合
Table 3:BMDの予測因子(各測定部位別)

考察:
BMD値
 過去の研究とほぼ同様の結果が得られた。ピークに関してやや違いが認められたが、これは横断研究による影響だと考えられる。
 ノルウェーにおける値はやや高いと言う結果になった。
 骨折が多いことの説明は、今回のデータからは不可能であった。

低骨塩量の頻度
 今回のサンプルで診断すると、以前の基準値を用いるよりも低骨塩量の頻度が増した。
 過去の研究では大転子の骨塩量のSDが減少することで、骨折のリスクが上昇すると言われている。しかしながら閉経前の女性ではこの影響は少なく、これが閉経前に骨折が少ないことを説明しているのかもしれない。さらに今回の検討では、ストレスがかかることによる骨折と骨塩量に関連が認められなかった。このことは、閉経前の女性の骨折原因が外傷によるものが多いことでも裏付けられる。
 今回の研究対象者は無作為抽出しているが、これまでの研究においては、健康な人たちを中心にサンプリングしているものが多く、このことによる差が生じている可能性がある。

骨塩量の予測因子
 腰椎の骨塩量については、今回測定していない遺伝や栄養の因子が強く関わっている可能性がある。
 負荷をかけた運動が、負荷をかけない運動よりも骨塩量に影響していた。週に2時間以上負荷のある運動をすることが骨塩量に関連していた。体重が影響していたこととあわせて、骨格に対する負荷が影響しているか、あるいは体重の影響は脂肪からのエストロゲンが影響していることを示しているのかもしれない。
 妊娠が関連していると言う点では、過去の研究と一致したが、ピル内服に関しては関連を認めなかった。こちらはこれまでも一致した見解は得られていない。

Limitations
 横断研究である点、運動に関する調査は妥当性の評価がなされていないと言う点、調査票は妥当であるが大まかな評価しかできない点などが挙げられる。
 調査参加率が48%であることも挙げられる。地域としては首都オスロでしか測定できなかった。ドロップアウトした人との比較では、身長と居住地に差を認めたが、これらは結果には大きく影響する因子ではなかった。
 今後、時系列による骨塩量の変化を測定するような、追跡調査が必要であろう。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
・DXA(X線)を用いて測定しており、データの信頼性は高い。
・ただし、測定の具体的方法については不明であり、調べる必要がある。
・横断研究であるが、ランダムサンプリングであり評価できる。
・運動についても、負荷のかかる運動と、かからない運動を分けて評価しているが、体重が骨塩量に関連すると言う結果から考えても、この測定方法は妥当だと言える。
・腰椎については、遺伝的因子と、栄養状態の影響が大きいと言われているが、今回の結果も、それを裏付ける形となっている。そういう意味でも信頼性の高いデータかもしれない。
・部位によって、骨塩量のピーク年齢が異なるが、サンプル数の違いによる影響かもしれない。
・日本でも看護師や、女子高などをフィールドにした研究が行われているが、あまり骨塩量などのデータはなく、今後そういった研究をデザインしていくことも重要かもしれない。

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