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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

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2007年1月24日 担当:小竹、戸澤

Social support and change in health-related quality of life 6 months after coronary artery bypass grafting
~ 心臓血管バイパス術後6ヶ月の健康関連QOLにおけるソーシャルサポートと変化 ~
出典: Journal of Psychosomatic Research 2006 60:185-193
著者:Lisa C. Barry, Stanislav V. Kasl, Judith Lichtman, Viola Vaccarino, Harlan M. Krumholz
<論文の要約>
はじめに:
心臓バイパス術(CABG)は冠状動脈疾患治療上、健康関連QOL(特に心の健康と身体機能)が向上することを主なゴールとして最もよく行われる手術である。健康関連QOLの向上の実現可能性のある変化の推定を明らかにすることは、介入効果尺度を開発することにおいて重要である。しかしながら、CABG術後の健康関連QOLのフォローをすることとソーシャルサポート間の関連を研究したものはほとんどみられない。詳細にわたる社会人口統計と臨床情報を利用してCABG術後患者の大々的コホートにおいて、手段的・情緒的ソーシャルサポートが 6ヶ月間の心の健康と身体機能の変化に無関係であるかどうかを明らかにする仮説検証型研究とした。

仮説:
1.手段的・情緒的サポートが、CABG術後の心身の健康によりプラスの変化をもたらす
2.サポートと心身の健康の関係が、年齢・性別・術前CABG健康関連QOLによって違いが生じるか検討する

方法:
本研究は詳細な研究報告(Vaccarino V et al.,2003)があった、CABG研究後のアプローチからリカバリーまで(ARCS)のデータを使用した前向きコホート研究。ニューヘヴンのエールニューヘヴン病院で初のCABG術及びCTを施行し、退院可能な患者を6か月まで追跡し、2年間調査。
1.対象:入院記録の日常スクリーニングにより1072/1164名(92%)が研究対象として、退院前と6ヵ月後のインタビューを施行。 92名の6ヵ月後データは死亡29名、辞退18名、病気/混乱11名、連絡不能34名のため除外。
2.データ収集:基本的属性(年齢・性別・国籍・結婚暦・最終学歴)と医療情報、入院理由(新徴候/臨床的事象・検査結果)、 術前の呼吸困難の有無
3.カルテ情報:胸部外科学会STS方式を用いて退院後の経過をレビュー。①臨床症状(狭心症・左心不全など) ②既往歴(うっ血性心不全・心筋梗塞・糖尿病など) ③過去の入院回数 ④付加的因子(バルーンパンピング使用経験あり)
4.受領サポート:退院前に構成的面接法を実施し評価。 面接内容→情緒的サポートと手段的サポート
(1)情緒的サポート(ENRICHD尺度)→APPENDIX A参照。 5項目5段階評定 5~22点までの範囲
正規分布を呈していなかったため3つのカテゴリー変数に分類→①22点②19-21点③18点以下。
情緒的サポートとの関連性検討の際、中程度と高いレベルに関してダミー変数を作成
(2)手段的サポート(Duke Social Support Index & ENRICHD尺度の一部)→APPENDIX B参照。 2項目5段階評定
信頼性の検討→α=.07 内的整合性あり。 分布:2項目共に高得点(μ=9±1)→70%以上
両極端に分離したため2つのカテゴリー変数に分類→①頻繁(4,5/5段階評定) ②利用しない(1~3)
5.健康関連QOLの変化:アウトカム→SF-36の身体機能と心の健康   退院前(面接)、6か月後(電話面接)
6.統計分析:
(1)二変量→情緒的・手段的サポート間の関連→カテゴリー変数:Χ2検定、連続変数:t検定又はANOVA
受領サポートと健康関連QOLの変化間の関連
共分散と健康関連QOLの変化間の関連(CABG前のスコア調整後)  →一般線形モデル(共分散分析)
(2)多変量→重回帰分析step wise法(6ヶ月の変化)
従属変数:心の健康・身体機能。 独立変数:情緒的サポート・手段的サポート
以前のARCSデータ分析から共分散分析と同様に初めに大きい共変動の項目を調整して分析
※重回帰の前に年齢、性別とサポート間の交互作用及び、CABG前とサポート間の交互作用の有無確認

結果:
1.基本的属性 平均年齢:65.7歳(32~94歳)。性別:男性73%:女性27%
2.受領サポート(表1) 
(1)情緒的サポート n = 1056
低サポート245名(23.2%)、中サポート258名(24.4%)、高サポート553名(52.4%)
性差→女性より男性(p < .0001),既婚者(p < .0001)、CABG前の身体機能(p = .0002)と心の健康(p < .0001)
(2)手段的サポート n = 1060
頻繁にサポートあり894名(84.3%)、性差→女性より男性(p = .002)、既婚者(p < .0001)
CABG前の身体機能(p = .002)と心の健康(p = .0006)、心筋梗塞暦あり(p = .01)
慢性閉塞性肺疾患(p = .0002)、貧血(p = .003),左心拍出率35%以下(p = .008)

3.健康関連QOL
身体機能変化:平均10.22±29.27(範囲-90~100)、心の健康変化:平均9.23±23.97(範囲ー92~80)
術前と同様に術後も身体機能と心の健康は有意に増加(p < .001)

4.受領サポートと身体機能の変化(表2) 影響みられず

5.受領サポートと心の健康の変化(表2)
頻繁に手段的サポートあり(β= 3.27, p = .02)。 交互作用→手段的サポートCABG前間( p = .005)


考察:
手段的サポートは術後CABGの6ヶ月の変化で心の健康に影響→健康の維持効果あり
 先行研究では、①具体的なサポートによって、在宅療養の高齢者が3年後うつ症状の減少(Oxman TE etal., 1992)、②CABG患者が手段的サポートによって、術後のうつ徴候が少なかった(Pirraglia PA et al.,1999)
見解→手段的サポートを利用することによって、より心の平和と穏やかさをもたらすのではないか。
 家事や運搬を手伝ってもらうことで、心の健康にプラスの変化が生じ、心地よい感覚が生じるのではないか。

研究の限界:
手段的サポートと心の健康に関する研究。手段的サポートの尺度の妥当性のリテストができなかった。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
・ソーシャルサポートに関するもの、QOLに関するものといった類似した研究は他にも多くありそうだが、本研究ではなぜCABGの人を対象にしたのか、この根拠が明確に記されていない。
・「先行研究の限界が本研究の刺激になった」ことは記されていたが、やはりそれ以前の動機づけとして「なぜCABGの人を対象にしたのか、着目したのか」をしっかりアピールできた方が良いのでは。
・「これを知ることによってどう役立つか」「これが分かるとこのように生かされる」といった視点と記載に欠け、この研究の必要性が分かりにくい。研究の最終目的となる社会への還元が弱いのでは。
・以上の点から、事前調査の不十分さがあり、introduction全体にもの足りなさを感じる。また、先行研究結果に関する記述はdiscussion部でも良いのでは。もう少しintroductionはシンプルが良いと思われる。
・受領サポートについて、正規分布を呈していなかったため、情緒的サポートは3群に、手段的サポートは2群に分けて解析しているが、この群分けの根拠が明確でない。情緒的サポートはダミー変数を使用して3群にしている。連続変数の場合、正規分布に近づけるために対数変換を行う場合があるが、今回の場合はカテゴリー変数での同様の処理法であったと考えられる。今回は2群の比較でも問題がなかったのではないかと思われる。
・QOLの変化をみるために、再インタビュー時期の設定を6ヶ月後にしてあるが、理由が記載されていない。推測としては安定した生活状況になっている時期と考えられるが、理由も明記すべきである。
・研究目的や意義、対象や時期の設定の根拠、解析手段の根拠などの明確化の必要性を考える論文であった。

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