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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

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2007年1月31日 担当:永井、鈴木

The Birth Weight "Paradox" Uncovered?
~ 出生体重におけるパラドックスは説明できるか ~
出典: Am. J. Epidemiol..2006; 164: 1115-1120
著者:Sonia Hernández-Díaz Enrique F. Schisterman, and Miguel A. Hernán
<論文の要約>
はじめに:
出生体重で層化して、喫煙者と非喫煙者の子どもの乳児死亡率を比較すると、低出生体重児のうち、ある体重より小さい児では喫煙者の児の死亡率が、非喫煙者の児の死亡率を下回る結果が見受けられる。これは、出生体重における“矛盾(パラドックス)”と呼ばれ、議論の対象となってきた。この論文では、出生体重の“矛盾”を説明するためにアメリカの全国データを用いる。また、私たちはメカニズムを提案するために因果関係の図を当てはめ、“矛盾”を説明することを目的とした。

方法:
 NCHCによって作成された出生/死亡データセットから、アメリカで1991年に出生した全ての乳児(4,115,494人)のデータを用いた。これらには、死亡日、死亡原因、出生体重、母体喫煙、その他の医学的、人口統計学的特徴が、アメリカの出生届にしたがって記録されている。乳児死亡率は、出生10万人あたりの出生後1年以内の死亡数として定義された。出生体重と母体喫煙のデータが欠損値となっている字のデータは除外した。カリフォルニアについては喫煙データが存在しないため除外した。採取的な研究対象者は3,001,621人であった。
 全ての、あるいは出生体重階級(250g区切り)ごとの乳児死亡率を計算し、妊娠中の喫煙という暴露の有無によって比較した。潜在的な交絡因子(母体年齢、妊娠回数、教育、婚姻状況、人種/民族、周産期ケア)を調整するために、ロジスティック回帰モデルを用いて死亡率比と95%信頼区間を計算し、評価した。実際にはこれらの交絡因子を調整しても影響がなかったので、調整していない率比のみを示した。

結果:
“矛盾(Paradox)”について
 図1に示すように、喫煙者から産まれた児の出生体重は、非喫煙者よりも小さい。
(喫煙者:3,145g、LBW-11.4%、非喫煙者:3370g、LBW-6.4%)喫煙者における乳児死亡率は1,235(出生10万あたり)、非喫煙者では805(出生10万あたり)。非喫煙者と比較した場合の、喫煙者の乳児死亡率比は1.55(95%信頼区間(CI):1.50-1.59)、出生体重で調整すると1.09(95%CI:1.05-1.12)であった。
 乳児死亡率は出生体重が減少すると、喫煙者、非喫煙者ともに増加する(図2)。しかしながら出生体重ごとの死亡率を曲線で描くと、2000~2250gで喫煙者と非喫煙者の曲線が交わった。2000g未満の児では、非喫煙者の死亡率のほうが上回ることになった。LBW児における喫煙の死亡率比は0.79(95%CI:0.76-0.82)で、正常出生体重児では1.80(95%CI:1.72-1.88)であった。

考察:
 われわれは出生体重の“矛盾”について議論し解釈するために、因果関係を図示し、解析的なアプローチを進化させることと同様の、概念的な構造を構築した。この見かけ上の矛盾は、興味のある暴露(喫煙)とそれと同様の因子によって影響されるアウトカム(乳児死亡率)の双方に影響する変数による層化(出生体重)によって引き起こされる選択バイアスによって概念化されるということを、因果関係の図を用いて示した。出生前の全ての変数の、乳児死亡率に対する効果を評価するために、出生体重は必要でないだけでなく、潜在的に害になりうる。出生前の変数についての直接的な効果の評価でさえ、LBWと死亡率の両方に共通して関連する、測定できない因子が存在するときには、出生体重による調整は一般的に妥当ではない。
 因果関係の構造に関する仮説の解析と追求が動機付けする、因果関係の問題の解明は、どんな解析アプローチにおいても事前に行う必要がある。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
・パス解析などとの違いはどこなのだろうか?
→これはあくまでもモデル作りが目的であり、モデルをしっかりと構築した上で、パスや共分散構造分析などをおこなっていくことになるだろう。

・低出生体重児を2500gで分けているが、この結果からは、2250gより大きいと、喫煙以外のリスクが喫煙を下回り、2000gより小さいと喫煙以外のリスクが喫煙を上回ることになる。もしかしたら、このような解析によって新たな指標ができるかもしれない。

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