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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2007.05.09

2007年5月9日 担当:今留、佐藤

To what extent is the protective effect of breastfeeding on future overweight explained by decreased maternal feeding restriction?
~ 母乳育児が子どもの将来の肥満を予防することに母親の食事制限意識の低さはどれだけ影響しているか? ~
出典: Pediatrics vol.118 dec.2006
著者:Taveras, Elsie M. Rifas-Shiman, Sheryl L. Scanlon, Kelley S. Grummer-Strawn, Laurence M. Sherry, Bettylou. Gillman, Matthew W.
<論文の要約>
目的:
母乳育児が子どもの思春期の肥満を予防する効果があると報告されている。母乳育児が肥満を予防するメカニズムとして、母親の子どもの食事に対する制限意識が影響しているのではないかと考えられる。本研究では、母乳継続期間や人工栄養摂取の有無と3歳時点での肥満に、この母親の食事制限意識が影響しているかどうかを検証した。

方法:
Project VIVAの参加者で無事に出産に至った2128人を対象とした。
妊娠中と出産直後、月齢6ヶ月、3歳の時点で訪問による調査を行った。また1歳の時点で調査票を郵送し、母親の食事制限と母乳栄養についての調査を行った。
全ての訪問調査が行われ調査票が回収された1212人の親子ペアについて解析を行った。

結果:
母乳継続期間が長いと3歳時のBMIのzスコアと皮下脂肪量が低くなっている。また人工栄養のみで育った子どもは、完全母乳や混合栄養の児に比べてBMIのzスコアや皮下脂肪量、肥満の割合が高かった。1歳時点での母親の食事制限意識の高さは、3歳時BMIのzスコアやの肥満率の高さに関連していた。6ヶ月時点で人工栄養を摂取していないグループの中で食事制限が低い傾向が強く認められた。しかしこの食事制限意識は、6ヶ月での母乳栄養の割合が、3歳時点でのBMIのzスコアに及ぼす効果には、一部しか関連していなかった。

結論:
母乳継続期間は3歳時点での肥満に強く関連があった。また人工栄養を摂取していないことが、3歳時のoverweightの割合を下げることが明らかとなった。しかし母親の食事制限意識がこれらに及ぼす影響は一部にしか関連が認められなかった。
本研究の限界は、母親の食事制限意識をCFQ(children feeding questionnaire)の1項目を用いることでしか計測できなかったことである。また母乳育児が肥満を予防する他の因子の存在や母乳の代謝過程でのメカニズムが作用している可能性も考えられる。またproject VIVAの参加者のバイアス(教育、人種など)も示唆されるために、今後より一般的な集団での検証が望まれている。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
6ヶ月時点での母乳育児の調査と3歳時点での子どもの身体状況の計測は信頼性があるが、1歳時点での母乳継続期間の質問紙調査はリコールバイアスが考えられる。
母親の食事制限意識に関しては本来であればCFQの8項目からなる制限に関する因子の設問すべてを用いるべきところを、子どもが1歳時点での回答という状況なので1項目しか聞いていなく、これの回答だけで母親の制限意識を判断しているのは疑問である。
他の文献で、2年間の追跡調査によりCFQでの母親の食事に関する子どもに対する意識は変化しないとの報告もあったので、せめて3歳時点でのCFQの実施により検討してもよかったのではないかと思われる。
また、肥満の定義が国際的指標とは異なっている95パーセンタイルを用いているがこの点はどうなのであろうか?などの疑問が浮かび上がった。

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