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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2007.06.06

2007年6月6日 担当:古屋

Serotonin-1A Receptor Gene HTR1A Variation Predicts Interferon-Induced Depression in Chronic Hepatitis C
~ セロトニン-1A受容体遺伝子HTR1A変異は、C型慢性肝炎におけるインターフェロン誘発性の抑うつの予測 ~
出典: Gastroenterology Volume 132, Issue 4, 2007
著者:Michael R. Kraus, Oliver Al-Taie, Arne Schafer, Matthias Pfersdorff, Klaus-Peter Lesch and Michael Scheurlen
<論文の要約>
バックグラウンドと目的:
IFN誘発性の抑うつは、C型慢性肝炎における抗ウイルス療法の主たる合併症である。サイトカイン誘発性の抑うつ症状と発症機序および予測因子との関連については、まだあまり知られていない。

方法:
我々は、IFNα-2bにより治療された139名のC型肝炎感染した外来患者群において、抑うつのリスクに関与する脳内セロトニン(5-HT)シグナル伝達経路の遺伝子変異体のインパクトを調査した。抑うつは、病院不安・抑うつ尺度(the Hospital Anxiety and Depression Scale (HADS))を使用することでモニターした。すべての患者を5-HT1A受容体(HTR1A)、5-HTトランスポーター(SLC6A4、5-HTT)、およびトリプトファンハイドロキシラーゼ-2(TPH2)の遺伝子変異として分類した。

結果:
HTR1A-1019G変異のホモ接合体は、IFN誘発性の抑うつの発現と重症度の両方を有意に増加させた。抗ウイルス療法中のHADS抑うつスコアにおける最大増加は、HTR1A変異に相関した(P=.011)。抑うつは、HTR1A-1019Gジェノタイプに有意に関連していた(P=.017; OR 2.95)。5-HTTとTPH2変異は、HTR1AによるIFN誘発性の抑うつの予測には寄与しなかった(感度35.9%、特異度84.0%)。

結論:
我々の調査結果からは、C型慢性肝炎の抗ウイルス療法中のIFNα誘発性抑うつの発現に、5-HT1A受容体アレル(=対立遺伝子)変異のインパクトが示唆された。HTR1A変異に基づいた、IFN誘発性抑うつ症状の予測モデルは、IFN誘発性の抑うつの遺伝学的リスクを有する患者において、抗うつ剤である選択的セロトニン再取込み阻害薬による予防の見解を提供するものである。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■うつ評価のためのthe Hospital Anxiety and Depression Scale (HADS)の使用について
⇒うつの発現頻度の先行結果には、ばらつきがあることが報告されているが、評価のためのゴールドスタンダードはあるのか?“IFN誘発性の抑うつ”に関するreviewだけみても、様々なスケールが用いられている。そのスケールを用いる根拠を明らかにして活用する必要があるだろう。
本研究では、身体症状の影響を排除し、純粋にうつ評価をするためにHADSの抑うつサブスケール7項目のみが選択されているよう。

■遺伝子以外のリスクファクターについて言及されていない。遺伝子以外の要因の調整や評価の必要はないのか?
⇒本研究でも調査はされているが、結果には示されていない。本研究の目的は、遺伝子という1つのファクターを推定するための研究であり、目的に沿った内容のみの記載でよいのではないだろうか?
⇒従来、うつは多因子疾患であり、その発症には、遺伝的要因以外にも、環境的要因、生物学的要因、性格特性、遺伝的要因などが様々な程度で関与すると考えられており、複合的な評価が必要であろう。
⇒全対象者がat riskな患者と考えてよいのか?年齢や感染時期などの影響は大きいものと思われるので、解析において考慮する必要があるだろう。
⇒治療中断者や治療のプロトコールから外れてしまう対象はどうするのか?それについては言及されていない。調査を始める前に、選択・除外基準を明らかにしておく必要があるだろう。

■結果の示し方について
⇒表欄外に、オッズ比の結果が示されている。本研究の目的である重要な結果を示すものであり、示し方の検討が必要だろう。
⇒今回の研究の目的は、予測因子を明らかにすることであり、まだ既知の知見ではないにも関わらず、結果表中の項目に“predicted”との表現がある。本研究の目的に対して、遺伝子多型ごとの結果をまず示すことが必要だろう。

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