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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2008.2.13

2008年2月13日 担当:須田、関口

Antenatal education and postnatal support strategies for improving rates of exclusive breast feeding: randomised controlled trial
~ 母乳育児率向上のための産前教育と産後支援戦略につい-ランダム化比較試験-~
出典: BMJ2007;335;596-;originally published online 1 Aug 2007;
著者:Lin-LinSu,Yap-SengChong,Yiong-HuakChan,Yah-ShihChan,DorisFok, Kay-Thwe Tun , Faith S P Ng ,Mary Rauff
<論文の要約>
目的:
定期的な病院でのケアと比較して、産前の母乳育児教育もしくは産後の授乳サポートを行うことが、完全母乳育児率を改善するか調べることを目的とした。

方法:
2004年の2月から2005年の9月に、シンガポールの国立大学病院のマタニティクリニックを受診中で合併症のない450人の妊婦を研究対象とした。対象者を、特別な介入がなく定期的なケアを受けたコントロールグループ、産前母乳育児教育を受けたグループ、産後授乳支援を受けたグループの3グループに無作為に割り付け、それぞれのグループの退院時、出産後2週間、5週間、3ヶ月、6ヶ月の時点の完全母乳育児率と母乳育児率についての調査が行われた。

結果:
定期的なケアを受けた女性と比較すると、産後に支援を受けたグループの女性は完全母乳育児率が高かった。産後2週間での相対危険は1.82(95% CI:1.14-2.90)、6週間での相対危険は1.85(95% CI:1.11-3.09)、3ヶ月での相対危険は1.87(95% CI:1.03-3.41)、6ヶ月では相対危険2.12(95% CI:1.03-4.37)であった。産前の教育を受けた女性は母乳のみで育てる傾向があり、産後6週間での相対危険は1.73(95% CI:1.04-2.90)、3ヶ月では相対危険1.92(95% CI:1.07-3.48)、6ヶ月では相対危険2.16(95% CI:1.05-4.43)であった。6ヶ月時に女性が完全母乳育児を達成するために必要な支援の回数は、産後支援11回、そして産前教育10回であった。産前教育を受けた女性群と比較して、産後支援を受けた女性群は出産後2週間で完全母乳もしくは主に母乳で育児をする傾向にあった(相対危険1.53, 95% CI:1.01-2.31)。定期的なケアを受けた女性と比較して、産後支援を受けたグループで出産後6週間の授乳率も高かった(相対危険1.16, 95% CI:1.02-1.31)。

結論:
病院に基づく単一の介入として、産前の母乳育児教育や産後の授乳支援は出産後6ヶ月まで完全母乳育児の割合を有意に改善した。産後支援はわずかに産前教育より効果的だった。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■ABSTRACTのResultsに書かれている "NUMBER NEEDED TO TREAT"とは何だろう?疫学辞典には「治療作用確認に必要な患者数である」とある。今回の文献の場合、6ヶ月時で1人の女性が完全母乳育児を達成するための"NUMBER NEEDED TO TREAT"が産後支援を11の場合は、1人の女性が母乳育児を行なっていることを確認するのに産後支援を受けた女性が11人必要であることを意味している。

■シンガポールの周産期医療について理解しておくと、この文献をさらに理解しやすい。

■本研究では病院ベースで各支援と授乳率の関連が明らかにされている。日本では地域ベースで授乳に関する支援を行なうがシンガポールにはないのだろうか?

■対象者である母親が授乳をやめてしまう理由は何だろうか?

■対象者は中国人、マレーシア人、そしてインド人などで構成されている。各民族間で文化や宗教的な理由から母乳育児に関する考えに違いがあるだろうか?

■シンガポールの平均出生時体重(3179g)は日本の約20年前のもの(3170g)と同じであることは興味深い。



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