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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

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2008年2月27日 担当:依田、今留

Mental Health and Diurnal Salivary Cortisol Patterns Among African American and European American Female Dementia Family Caregivers
~ アフリカ系アメリカ人とヨーロッパ系アメリカ人の女性の認知症介護者における精神的健康と唾液コルチゾルの日内変動 ~
出典: Am J Geriatric Psychiatry 14:8(2006)684-693
著者:T.J.McCallum, Ph.D., Kristen H. Sorocco, Ph.D., and Thomas Fritsch, Ph.D.
<論文の要約>
目的:
アフリカ系アメリカ人とヨーロッパ系アメリカ人における、認知症家族の女性介護者間の抑うつ症状、ストレス、ストレスフルな状況に対する受容力と唾液コルチゾル反応を比較することである。

方法:
アメリカ人女性介護者及び非介護者計117人(介護者-アフリカ系30人・ヨーロッパ系24人、非介護者-アフリカ系48人・ヨーロッパ系15人)を対象として、唾液コルチゾルサンプルの収集及びSRGS(ストレス関連成長スケール)、CJC(介護の文化的正当化スケール)、RCOPE(宗教的コーピング)、CES-D、 PSS(知覚ストレススケール)の測定を行い、コルチゾルレベルの線形勾配との関連を、マルチレベル分析を用いて推定した。

結果:
コルチゾル勾配とCES-D及びPSSとの相関はなかった。民族性とSRG(ストレス関連の成長)はコルチゾル勾配とポジティブに関連していた(民族性:r[97]=0.320、p<0.001、SRG:r[44]=0.326、p=0.031)。
回帰分析の結果、年齢は、コルチゾルの変化の重要な予測項目であり(t=-2.315、df=94、B=-0.209 SE=0.090、p=0.023)、民族性も同様であった(t=2.149、df=94、B=5.073 [SE]=2.361、p=0.034)。
アフリカ系アメリカ人介護者は、起床時(平均:0.29、SD:0.15)に、ヨーロッパ系アメリカ人介護者(平均:0.42、SD:0.13、t[39]=-2.75、p=0.009)よりも低かったが、午前9時、12時、午後5時、午後9時の4時点では類似していた。介護者・非介護者とも、アフリカ系アメリカ人(-0.06)の方が、ヨーロッパ系アメリカ人(-0.08)より、コルチゾル勾配スコアが少なく、平坦であった。

考察:
アフリカ系アメリカ人介護者は、ヨーロッパ系アメリカ人介護者より、コルチゾル勾配が平坦であり、SRGが高く、介護者役割に柔軟性があることが明らかになった。加えて、介護者・非介護者に関わらず、アフリカ系アメリカ人とヨーロッパ系アメリカ人では、年齢及び民族性において、コルチゾル勾配に差がみられ、介護ストレスを減少させるためにも、文化に適する介入方法の検討が必要である。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■研究目的が、あまり明確ではなく、比較しようとしているものが多すぎる。

■研究対象として、介護者だけでなく、非介護者も入っているが、そのリクルート基準が明記されていない。また、唾液採取は対象者に任されているが、睡眠・運動・報酬等の影響も考えられ、一律なデータ収集方法が遵守されているのか不明確。

■非介護者も対象としている意図は?ケース・コントロールなのか?

■なぜ、コルチゾル勾配(スロープ)で見ているのか?スロープを見るのであれば、2時点で良いのでは?5時点を調査している意味は?また、アフリカ系アメリカ人のコルチゾル勾配が平坦であるとしているが、そもそもコルチゾル分泌は、人種による差はないのか?唾液分泌量との関係はどうなのか?

■マルチレベル分析に投入した変数は何か?

■認知症介護者のストレスを見るのであれば、認知の程度や1日の介護時間などとの関連を見ることが必要ではないか。

■もっといい研究デザインがあったのではないか。

■パイロットスタディであるとしているが、この先の研究の方向性が明記されていない。



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