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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2008.3.5

2008年3月5日 担当:鈴木

Measurement of cord insulin and insulin-related peptides suggests that girls are more insulin resistant than boys at birth
~ 臍帯におけるインスリンおよびインスリン関連ペプチドの測定により、出生時に女児のほうが男児よりもインスリン抵抗性が高いことが示唆された ~
出典: Diabetes Care; Oct 2007; 30, 10; 2661-6.
著者:Beverley M Shields; Bridget Knight; Heather Hopper; Anita Hill; et al
<論文の要約>
目的:
出生時に臍帯血中のインスリン濃度およびインスリン前駆ペプチド濃度を測定することにより、その性差が存在するかどうかを検証すること。

方法:
13人の臍帯血中からインスリンおよびインスリン前駆ペプチドを採取し、へパリンとEDTAを加えたのちに遠心し、分離した血清を1、2、24、48時間後に室温および4℃で濃度を測定した。さらに440人の新生児に対して臍帯血のインスリン濃度とインスリン前駆ペプチド濃度を測定した。

結果:
臍帯血中のインスリン濃度は、へパリンをくわえ室温で保存した場合に有意に減少した(ベースラインから24時間で74%)。しかしEDTAを加え冷蔵した場合には、48時間までは濃度の変化を認めなかった。インスリン前駆ペプチドは両者において変化を認めなかった。臍帯血中のインスリンとインスリン前駆ペプチドをEDTA付加サンプルで測定したところ、出生時の児の体重と母体の血糖値、BMIに関連しており、これらは帝王切開の場合に高値となっていた。女児は出生体重が少なかったが、臍帯血中のインスリン、総インスリン前駆ペプチド濃度、および純?インスリン前駆ペプチド濃度は男児よりも高かった。男女を出生体重でマッチした場合のペアにおける検定でも臍帯血中のインスリン濃度は女児のほうが高いことが確認された。

結論:
適切に採取した臍帯血中のインスリン濃度は、女児で出生体重が小さいにも関わらず、男児よりも高いことが明らかになった。このことは女児のインスリン抵抗性がそもそも高いことを示唆している。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■本来、インスリンは凝結させても、血清で測定できるはずなので、なぜ凝結させないような保存方法を検証したのかは疑問である。
→HbA1cなどの血球成分由来のものについては、凝血させたら測定できない。この研究は大規模研究の一部であり、もしかしたらその他の項目を測定したいために、保存方法の検討を行ったのかもしれない。

■女児は体重が少なくても、皮下脂肪が厚い、つまり脂肪が多いためにインスリン抵抗性が高くなっているのではないか?
→実際に成人でも、運動によって体重が変化しないのにインスリン抵抗性が改善した例があるが、それは脂肪量が減少したことによると考えられる。
→ただし、今回はその脂肪量そのものの違いが性差であることの表現となっている可能性もあり、メカニズムについて言及していないのはそのためかもしれない。

■帝王切開で出生した児のインスリン濃度が高いのは、手術という侵襲に対して母体が反応性に高血糖となり、そのために胎児のインスリン分泌が高くなったと考えるとリーズナブルである。

■本来の生物としては、飢えから身を守るために高血糖状態を維持することが重要であったと考えられる。女性は妊娠・分娩というReproductionに直接かかわるため、男性よりも飢えなどの生命の危機から身を守る必要があり、そのためにこういった性差が存在していると考えると、これもリーズナブルである。妊娠中に耐糖能が悪化するのも、飢えから胎児と自分を守るという視点からするとリーズナブルである。
(参考)
●胎盤(母体)→臍帯静脈→胎児→臍帯動脈→胎盤(母体)と循環している。胎盤で母体血と胎児の血液は分離されているが、母体血の高血糖状態は胎児にも影響している。
そのため糖尿病母体から出生した児は、出生直後、母体の高血糖の影響で高インスリン状態になっており、低血糖状態になる。
臍帯血を採取する際には、血管壁が薄くそして胎児にとっての動脈血が流れる臍帯静脈から採血する。
●ちょっと産婦人科時代を思い出しましたが、臍帯静脈から採血して血液中のpH を測定して、胎児のストレスがどの程度であるかを測定していました。臍帯血の採血は技術的なものに依存して溶血してしまったり、凝血させてしまったりすることも多く、今回の92例が測定不可能であったと言うのも納得できます。

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