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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2008.5.21

2008年5月21日 担当:古屋

Severity and duration of depression, not personality factors, predict short term outcome in the treatment of major depression
~ パーソナリティ因子ではなく、抑うつの重症度と持続期間が、大うつ病の治療における短期転帰を予測する~
出典: Journal of Affective Disorders,Volume 104, Issues 1-3, December 2007, Pages 119-126
著者:Marc B.J. Blom, Philip Spinhoven, Tonko Hoffman, Kosse Jonker, Erik Hoencamp, P.M. Judith Haffmans and Richard van Dyck
<論文の要約>
背景:
治療転帰の予測は、臨床における重要な意義を有している。パーソナリティ因子は、ごくまれに深刻な転帰の予測手段として検査されてきた。抑うつ的な外来患者の治療転帰予測のため、パーソナリティや人口統計学的、疾患関連の特徴が彼らの治療開始時に評価された。

方法:
193例の大うつ病性障害(MDD)患者が、12-16週間のトライアルに登録された。治療は、ネファゾドン単独療法、ネファゾドンと対人関係療法(IPT)との併用療法、IPTとプラセボの併用療法、IPT単独療法から成る。人口統計学的、疾患関連の変数は、トライアル開始時に集められた。パーソナリティは、NEO-FFIを使用して評価した。この調査票は、パーソナリティの5因子を測定する。抑うつ状態の緩解における、有意な予測因子を評価するため、階層的ロジスティック回帰分析を行った。更に、重回帰分析には、抑うつ変数としてHamilton Depression Rating Scaleを変化予測のための従属変数として用いた。

結果:
単変量解析は、抑うつの重症度と持続期間、医学的サービスの利用(UMS)と転帰の有意な関連を示した。パーソナリティ因子のいずれも、転帰を予測しなかった。回帰分析は、疾患関連の変数が、各々独自に転帰を予測した。しかし、パーソナリティ因子は予測モデルに有意に寄与しなかった。

限界:
調査は2次および3次医療機関で行われ、他集団に一般化できない可能性がある。パーソナリティ因子は自己報告調査票で評価され、バイアスの傾向がある可能性がある。

結論:
MDDの短期治療において、抑うつの重症度と持続期間、そしてより少ないUMSとパーソナリティ因子でないことは、治療転帰を予測する。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■パーソナリティとPD(パーソナリティ障害)との繋がりについて
⇒パーソナリティとPDには連続性があり、NEO-FFIは、PDのような病的状態を推定できる尺度なのだろうか。
DSM-IVの診断基準は、症状の出現に基づいて病気を分類し診断するという立場で作られている。この基準によると、PDの特性は、認知や感情、対人関係などの機能障害の範囲の広さ、主観的苦痛および社会的機能の障害の存在、そして平均からの性格傾向の偏りなどと記述されており、一般的な人格とは、連続性があると言われている。それを前提に仮説が立てられたのだろう。

■研究デザインについて
⇒サンプルは'患者'であるが、プラセボ群をおくことは倫理的に許されるのか?
併用療法の効果を明らかすることが目的であれば、薬物療法単独と対人関係療法(IPT)併用の2群の比較でよいのではないだろうか。
効果的であることが明らかな薬物療法を行わないことは問題ないのだろうか。
IPT単独のみの効果を明らかにすることができるのではないだろうか。
明確な要薬物療法の患者や、緊急性のある患者は除外されているため、倫理的には問題がないのだろう。

■研究対象(PDの併存)について
⇒うつ病者のうち、PDを併存している症例は少なくないと言われている。レビューで言われている先行結果の違いは、PD & non-PD混在の対象者であることが影響している可能性があるのではないか。
また、このPD & non-PDの混在が本結果に影響しているのではないだろうか。

■結果(サンプルの特徴)について
⇒カイ2乗検定では、4つ治療間の緩解率における統計学的有意差はなかったとあるが、multilevel analysisを用いた結果では、薬物単独とIPT併用療法の間に差があることが見出されている(他論文参照と記載)。関連文献を確認する必要があるだろう。







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