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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2008.10.1

2008年10月1日 担当:芳我

The Spread of Obesity in a Large Social Network over 32 Years
~ 32年間にわたる社会的ネットワークにおける肥満の拡がり ~
出典: The New England Journal of Medicine,357(4),370-379,2007
著者:Nicholas A. Christakis,James H. Fowler
<論文の要約>
背景:
肥満の有病率は、過去30年間に実質的に増加してきた。我々は、肥満の有病率に寄与する因子として人から人への肥満の広がりの種類と範囲を量的に分析した。

方法:
我々は、12,067人が濃密に相互に連携し合う社会的ネットワークをフラミンガム・ハート・スタディの一部として1971年から2003年まで繰り返し査定し、評価した。全ての対象者のBMIを算出した。我々は、長期的な統計学的モデルを用い、一人の人の体重増加が、その友人、きょうだい、配偶者、近隣者と関連しているかどうかを調べた。
※フラミンガム・ハート・スタディ
1948年 5,209人がオリジナルコホートとして登録しフラミンガム・ハート・スタディが始まる。
1971年 オリジナルコホートのメンバーの子とその兄弟のほとんど(死亡した10人を除く)の5124人が登録し、フラミンガム・オフスプリング・スタディが始まる。
2002年 第3世代のコホート、オフスプリングコホートの子4095人からなるコホートが始まる。

結果:
肥満者と認識できるクラスター(BMIすなわち体重Kgを身長mの二乗で割ったものが30以上)は、全ての時点でネットワークに存在し、そのクラスターは3次数まで広がっていた。これらのクラスターはそれ自体、肥満者間での選択的社会形成によるものとは見なせないだろう。一定の間隔で肥満になった友人をもつ場合、その人が肥満になる可能性は57%増加した。成人したきょうだいのペア間では、一方が肥満になると、もう一方が肥満になる確率は40%増加した。もし、ある配偶者が肥満になると、もう一方が肥満になりやすさは、37%増加した。これらの影響は、地理的に近接している隣人間では見られなかった。また、同性の人は異性よりも、比較的にお互いに影響を与えていた。禁煙の広がりは、ネットワークにおける肥満の広がりを説明しなかった。

結論:
ネットワークという現象は、肥満の生物学的・行動学的特性に関連しており、肥満は社会的タイを通して広がると思われる。また、これらの結果は臨床的・公衆衛生的介入のための示唆となる。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■イントロダクション:何のためにこの研究をしたのか、研究の目的・意義を明確に論述する必要性について検討した。本研究では、肥満が流行するネットワークを観察することが目的としか触れられていない。ネットワーク分析には、「中心性」などの概念があり、人の行動を変えるためにどのように働きかけるとよいかなど、その成果の活用を目的としたものも多い。
本研究は、食事や運動といった、肥満のリスクとされているさまざまな行動が、ネットワークによって広がっていくことから、食事や運動という具体的な行動レベルの上位にある、人と人とのネットワークを独立変数として解析したものであろう。よって、どのようにして健康行動を広めていくか、健康に関する行動変容を目指したのではないかと推測されるが、研究成果をどのように生かしていくのか、具体例があれば研究の意義がわかりやすかったのではないか。

■結果①:多重比較の問題について。同じサンプルを繰り返し測定することは、第1種の過誤(αエラー)を生じやすくしてしまうのではないか検討した。この場合、サンプルは「ネットワーク」つまり「人と人との関係」であり、個人を測定しているのではなく、関係を測定しているため、ある時点の相関関係はその1回きりの測定であると考えられる。よって、この場合多重比較には該当しないのではないかと考えた。

■結果②:7回調査をしているが、結果の図3Aは、7回目(2003年)の測定を実施した際、肥満になる確率は、2次数のオルターと3次数のオルターに違いが殆どないことを示している。また、7回の調査について肥満の影響度を概観すると、社会的にも地理的にも近い人から影響を受けていることについて、その理由を検討した。その結果、①コミュニティの力(Social capital)がアメリカでも弱まっている可能性があること、②2次数の人は、調査対象地域に限定しているため、それ以外の人との関係が強くなる、つまり社会的に拡がりをもつような変化を反映できない可能性があること、が考えられた。②は、フラミンガム・ハート・スタディの対象者に限定して研究を行っているために生じる本研究の限界であると考えられる。







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