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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

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2008年10月22日 担当:安田

Being Admired or Being Liked: Classroom Social Status and Depressive Problems in Early Adolescent Girls and Boys
~ 称賛されること、好かれること
 -青年前期の男女におけるクラス内の社会的地位と抑うつの問題にいて- ~
出典: J Abnorm Child Psycol vol.35 31 january 2007 417-427 (doi:10.1007/s10802-007-9100-0)
著者:Albertine J.Oldehinkel, Judith G. M. Rosmalen, Rene Veenstra, Jan Kornelis Dijkstra, Johan Ormel
<論文の要約>
目的:
青年前期にある子どもはクラスメートとの相互作用にかなりの時間を費やし、クラスメートを社会的比較や自己評価に対する主たる対象としている。そこで本研究では、青年前期にある子どものクラスルーム内における功績に関連する地位(学習優秀者、スポーツ優秀者、容姿端麗)および感情に関連する地位(好かれている事、嫌われている事、大親友)の視点に立脚した社会的地位と抑うつとの関係を明らかにすることを目的とした。

方法:
本研究はオランダ人児童を対象にメンタルヘルスの発達を模式化するために2001年から開始された青年の生活追跡調査(TRAILS)の一部である。TRAILSに参加している生徒およびそのクラスメートによって社会的地位にノミネートされた生徒の中からTRAILSに参加している1046人を本研究における対象とした。
抑うつ問題を評価するために子ども行動チェックリスト(CBCL)を用いて両親が子どもを評価し、CBCLに加えてこの問題を子ども達が自ら報告する(YSR)尺度が用いられた。CBCLとYSRの一致率は中程度であったことから、抑うつ問題はCBCLとYSRを標準化した平均値によって評価された。本研究で用いたCBCL/YSR尺度はDSM-IVの主要な抑うつ障害を反映した13項目で構成されている。また、クラス内の地位はクラスメートからノミネートされる割合によって評価された。
本研究で測定された変数は標準化され性別との相関について、それぞれt検定およびz検定を行った。クラスメート内の各々の地位について80パーセンタイル以上を高地位群、20パーセンタイル以下を低地位群と定義した。さらに各々の社会的地位を複合的に分類するために「少なくても1つの領域に低い地位があり、かつ、少なくても1つの領域に高い地位がある」を高低地位群、「少なくとも1つ以上の領域で低い地位があり、高い地位が全くない」を低地位群、「少なくても1つ以上の領域で高い地位があり、低い地位が全くない」を高地位群、「全ての領域において低い地位および高い地位がない」を中地位群と定義した。
なお本研究の調査データはTRAILSベースライン時から2,3年後に追跡した時点での検査データを基にした横断調査である。

結果:
乱暴行動を調整した後、男女別に抑うつ問題との関係を明らかにするためにクラス内にある各々の地位を高群および低群に分け標準化により相関を算出した結果、女子はクラス内で好かれる事が低い地位(β=0.33 p=0.02)、男子はクラス内でスポーツ優秀者である事が低い地位(β=0.38 p=0.005)であることが最も強く関係していた。
さらにクラス内の地位を複合的に分類し高低地位群をリファレンスカテゴリーとし、抑うつ問題との関係を算出した結果、地位低群のみ有意な関係が示された(β=0.30 p=0.001)。

限界:
CBSL/YSR抑うつ問題尺度はDSM-IV基準に則った抑うつ問題を評定するために開発されたものではない。従って、質問項目は全てのDSM-IV基準と1対1の対応を表していない。さらに横断的な調査であり実験的な本質のデータではなく、関係性が明らかになった事の因果関係の解釈ができない。

結論:
抑うつ問題は、女子においては好かれていない事、男子においてはスポーツ優秀者でない事が最も強く関係していた。また、ある領域で低い地位であることによる否定的な要素が他の領域で高い地位であることによる肯定的な要素によって相殺される一方、ある領域で低い地位である事によって高い地位での有益な効果を妨げることがないことがうかがえた。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
1.方法について
■抑うつ問題とクラス内の地位(スポーツ優秀者、学習優秀者、容姿端麗など)の関係が明らかになったとしても変容することが困難であるため、今後結果をどのように応用するのかがあまり明確でない。
■社会的地位(Social Status)が本研究で一番肝心な用語であるにも関わらず、その定義が曖昧である。また、本研究ではクラス内の社会的地位を「スポーツ優秀者」「学習優秀者」「容姿端麗」「好かれる事」「嫌われる事」「大親友」の6項目で定義しているがそれだけではないはずである。この6項目で定義してよいものなのか疑問である。
■オランダ北部の5つの自治体にある122の初等学校がTRAILSに参加しているが、本研究に参加している初等学校が32校に激減していることから対象者にバイアスがかかっていることが懸念される。
■本研究はTRAILSに参加している児童を分析の対象にしている。しかしノミネートする児童、ノミネートされる児童の中にはTRAILSに不参加である児童が多数存在する結果、分析に関係ない児童を多く巻き込んでおり、研究に対する倫理的な面での問題はないのだろうか。
■抑うつを説明するための評価基準(高群、低群を80パーセンタイルや20パーセンタイルで区切る)が曖昧である。
■クラス内の社会的地位を選定するノミネートの詳細な方法(1人のみ選定、複数人の選定など)が記述されていない。

2.結果について
■表1に表題「男女別でのクラス内の地位およびメンタルヘルスの平均値」とあるが、表1の記述統計の平均値に関する記述がないため、何の値であるのか不明確である。
0.56の値は100人中56人がノミネートしているという意味なのか?

3.考察について
■表3はクラス内における6つの地位それぞれに関してその地位の高群および低群による抑うつ問題との関係について表している。乱暴行動による調整後、統計的に有意な関係が消滅している項目が認められるが全く考察されていない。
■CBCLはうつ病だけの尺度ではない。CBCLは、Internalizing(心の内面や感情の訴え)及びExternalizing(クラスで落ち着きがない、動き回るといった行動上の問題)が中核を成している。乱暴行動は問題行動であり、乱暴行動を調整しているのは既に表出している行動を除外し、心の内面に対する影響、つまりこれらをうつ状態とし、その状態のみを抽出するためであろう。







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