PAGE TOP

国立大学法人

山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2008.11.19

2008年11月19日 担当:鈴木

Effects of Socioeconomic Position on Inflammatory and Hemostatic Markers: A Life-Course Analysis in the 1958 British Birth Cohort
~ 炎症および血液凝固マーカーに対する社会経済的地位の影響:1958年英国出生コホートによるライフコース解析 ~
出典: Am J Epidemiol 2008;167:1332-1341
著者:Faiza Tabassum, Meena Kumari, Ann Rumley, Gordon Lowe, Chris Power, and David P.Strachan
<論文の要約>
目的:
心血管系疾患に対する社会経済的地位(SEP)の累積的な影響は、これまでにも報告されてきたが、その経路は明らかになっていない。本研究において、著者らは炎症反応や血液凝固系マーカー(フィブリノゲン、CRP、von Willebrand因子抗原、組織プラスミノゲン活性化抗原)に対しての、SEPの生涯にわたる影響を検討した。

方法:
2002-2004年に行った血液検査のデータを含む、1958年生まれの英国出生コホートのデータを用いた。社会的な地位は対象者の生涯における3時点(小児期(出生)、成人早期(23歳)、中年期(42歳))で評価した。累積SEPスコアの範囲は、0点(全時点で最高位)から9点(全時点で最下位)である。

結果:
男性と女性において、有意な関連がフィブリノゲン、CRP、von Willebrand因子抗原、組織プラスミノゲン活性化抗原(女性のみ)で認められた。BMIと喫煙、身体活動で調整しても、フィブリノゲンとCRPについては有意な傾向を認めた。しかしながら、von Willebrand因子抗原と女性の組織プラスミノゲン活性化抗原については、有意な傾向ではなくなった。SEPに関連したリスク暴露は、生涯にわたってその影響が累積し、フィブリノゲンやCRPの上昇に影響していた。小児期におけるSEPの血液凝固系マーカーに対する影響は、成人のSEPよりも影響が大きかった。

考察:
本研究には以下の利点がある。
■この知見は42年間にわたって、社会階級の測定を3時点で行ったデータに基づいており、社会階級とマーカーとの関連を示した。
■他の研究と違って、生涯にわたる社会階級を4段階で表現し、社会階級の影響をスムーズに表現できた。
■対象者に対して、調査をその時点ごとに直接行ったことで、思い出しではなく、社会階級を評価できている。
■限られた年齢における、大規模なコホートを用いたことにより、他の研究よりも結果が頑健であるだろう。

一方で、限界点としては以下のものがあげられる。
■コホート全体を追跡できなかった。
■因果の逆転を評価していない。
■健康に関連した行動により調整を行ったが、他の測定していない因子の影響を考慮できなかった。
■97%が白人であり、人種、民族によって階層化して解析を行うことができなかった。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■こういったマーカーはどのようなメカニズムで検査値が上昇したりするのだろうか?
→動脈硬化が進展し、血管の壁に細かい傷などが生じることで、炎症がおこり、フィブリノゲンやCRPなどが上昇する。また傷ができたことで、止血も促され、凝固系マーカーが上昇すると考えられる。

■これはどのくらいの地域を対象としているのか?
→ほぼイギリス全体で1958年のある1週間に生まれた全員を追跡しているのだろう。国がしっかりと資金を保証しなければできない研究だと思う。

■出生時は親の同意で研究を始めているが、このような研究の場合、本人の同意はいつとればいい?
→日本では疫学会で16歳になったら本人の同意をしっかりとる必要がある、となっている。

■小児期などでの血液データが存在しないため、因果の逆転については検討できないとなっているが、動脈硬化が時間をかけて進展していくことなどを考えると、社会経済的な地位がその後のマーカー上昇につながっている可能性が高いだろう。

■小児期の社会経済的地位は、その時期の栄養状況や、有害な環境への暴露などを意味している可能性があり、そのことが結果的にマーカーの上昇などにつながっているかもしれない。







前のページに戻る