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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2009.2.4

2009年2月4日 担当:森川

Changes in Cognition and Mortality in Relation to Exercise in Late Life : A Population Based Study
~ 高齢者における認知能力の変化と死亡率、そして運動の関連についての検討 ~
出典: PLoS ONE. 2008; 3(9): e3124.
著者:Laura E. Middleton, Arnold Mitnitski, Nader Fallah, Susan A. Kirkland, and Kenneth Rockwood
<論文の要約>
背景:
平均して、認知能力は年齢とともに衰えるが、それには個人差があり、改善のチャンスをも含んでいる。ここでは運動がどのように認知能力の変化及び高齢者の死亡と関連するのか、特に、運動により長生きが可能になることによって逆説的に認知症のリスクが増すか否かについて調査する。

方法および主な所見:
健康と老化に関するカナダの研究(CSHA)において、CSHA-1でベースラインの認知能力と運動状況を調査できた8403人のうち、死亡は2219人、CSHA-2で再試験できたのは5376人だった。修正版ミニメンタルステートエクザミーション(MMMSE)により測定した認知能力の改善及び低下と、死亡などの確率を評価するために、年齢と教育を調整した上でパラメトリックなマルコフ連鎖モデルを使用し、可能な限りの認知能力を調査した。
多く運動する人(1週間に最低3回以上ウォーキング程度の運動をする人3264人・42.3%、95%信頼区間:40.6~44.0%)は、少し又は全く運動をしない人(その他の運動及び全くしない人4331人・27.8%、95%信頼区間:26.4~29.2%)より、5年以上認知能力が安定または改善されていた。ベースラインの認知の悪さに関連してその差は広がった。
認知能力が低下する割合は、高い運動をする人の中ではより高かったが、それは各グループ間で類似していた(高い運動を行う人39.4%、95%信頼区間:37.7~41.1%に対して、そうでない人34.8%、95%信頼区間:33.4~36.2%)。
また、運動しない人は死亡しやすい傾向があった(37.5%、95%信頼区間:36.0~39.0%に対して18.3%。95%信頼区間:16.9~19.7%)。ベースラインの認知能力が高い人にとって、死亡率に対しての運動の最も大きい利益が与えられた。

結論:
運動は認知能力の改善に強く関係している。運動の、死亡率に対する利益の大部分は、認知能力の最も高い人に対して存在し、また、認知能力の衰える人に対しては利益も少ない。全体としては、より長生きした場合でも、運動は認知能力の改善をもたらす。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>

■運動により認知能力が安定することは先行研究で確認されているが、運動により長生きした場合、逆に長生きによる認知能力の衰えとの関係も検討が必要になる。この関係を疫学的方法によって明らかにした研究である。

■認知能力と運動、また死亡との関係を明らかにするには、運動前後の認知変化の測定だけでは不十分で、生存期間別に分けた認知と運動の解析などの方法が考えられるが、本研究では、カナダの65歳以上の認知症コホートに対しての5年間(1991年~1996年)の前向き研究を行なった。

■ベースラインの認知能力(0~12)に基づいて、その後の運動・年齢の高低によって、〈認知の改善・安定〉、〈認知の悪化〉、〈死亡〉、に至った割合を検討し、その結果を図式化して表している。

■運動と年齢の高低の関連によって作成される4つのグラフを一元的に表した図は興味深い。年齢が若く高運動の群のデータが最も良く、高齢で低運動群のデータが最も悪い、また低年齢・低運動と高年齢・高運動とがほぼ同様な傾斜になっていることが表わされている。

■本研究はこのように数字的表現でなく、図を上手に用いて表現している。これらの図の使い方や表現の仕方が重要で、見事である。

■解析方法の詳細については不明だったので、さらに調べる必要がある。

■認知のスクリーニングで用いられた3MSはMMSE(30点満点)を拡張したもので、動物の名前、出生の日・場所、二度の想起の問題などを追加した100点満点で、0・1・2と3点毎に点数("0"は3MSの点数=100・99・98、"1"は97・96・95)をつけ、順次≦58("14")まで数え、それ以上低い人は15、死亡は16としている。図中のcognitive stateが0~12なのは、ベースラインでは13以上の認知の悪い人はいなかった、あるいは数がほんのわずかであったため、12のカテゴリに含めたものと考えられる。







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