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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

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2009年2月25日 担当:高岸

Randomized, placebo-controlled trial of Saforis for prevention and treatment of oral mucositis in breast cancer patients receiving anthracycline-based chemotherapy
~ アントラサイクリン系の化学療法を施行している乳癌患者におけるSaforisの口内炎の予防と治療:プラセボ群とコントロール群のRCT ~
出典: Cancer. 2007 Jan 15;109(2):322-31.
著者:Peterson DE, Jones JB, Petit RG 2nd.
<論文の要約>
背景:
口内炎(OM)はmucotoxicな癌の化学療法において比較的多い副作用のひとつである。口内炎は、口腔内の痛み、感染リスクの増加、(摂食)機能の障害を引き起こす。経口懸濁液のUpTecに含まれているSaforis(グルタミン酸)パウダーの口内炎治療の効果と安全性については評価されている。Saforisはプラセボに比べて、吸収のよいグルタミン酸で、10秒で細胞内へ取り込まれるのが特徴である。グルタミン酸は必須アミノ酸であり、粘膜の再生を促す作用がある。

方法:
この研究はロシアでデザインされた。乳癌患者でアントラサイクリン系の化学療法を施行されており、Performance Statusが2以下の2084名の患者から、WHOの口内炎分類のグレード2以上の326人をSaforis群(163人)かプラセボ群(163人)に選別し、次の化学療法までの間、1日3回施行してもらった(治療サイクル1)。患者は治療サイクル2までの間の補助治療期間にクロスオーバー(入れ替え)した。統計処理の前提条件として、治療サイクル2の効果は持続してしまうため、初回効果の分析は治療サイクル1のみを基準にすることとした。脱落は、8名と13名であった。研究の目的の1つは、Saforisの効果と安全性の検証で、2つ目の目的はプラセボと比較したSaforisの効果の検証であった。評価は、専門化による口内炎アセスメントスケール(OMAS)の評価と患者自身による嚥下と痛みのビジュアルアナログスケール(VAS)の評価表を使用して評価した。治験は化学療法の開始日から最終投薬日の14日後まで実施し、口内炎が出た場合はなくなってから5日後まで実施した。患者は、薬を使用したあとの30分間は飲食禁止とされ、歯磨きは1日2回、ジェル状の歯磨き剤とやわらかめのブラシで行い、デンタルフロスやアルコール製の口腔消毒薬は使用が禁止された。また口内炎の治療薬や他のうがい薬の使用は禁止された。
口内炎の症状の判定は、週に3回実施した。(治療サイクル1・2の各3・5・7・9・11・14日目)そして口内炎がある場合には、16・18日目も診察した。口内炎がグレード0になるか、または固形物が食べられるまでの3週間は評価を継続した。安全性については、身体機能の評価や血液検査、有害事象の発生に関して評価した。
統計解析は、奏効率をプラセボ群50%、Saforis群70%として、90%の検出力でサンプルサイズの計算を行い、206名のサンプルサイズとなった。このため、Saforisの持続効果が予想されてはいたが、クロスオーバーのデザインで研究を行なうこととなった。

結果:
プラセボ群と比較して、Saforis群はWHOのグレード2以上の口内炎が有意に減少していた(38.7%と49.8%;P=0.026)。そして、WHOのグレード3以上の深刻な口内炎は治療サイクル1において、(1.2%と6.7%;P=0.005)であった。Saforis群はプラセボ群と比べて、治療サイクル1において口内炎アセスメントスケールの最も悪い潰瘍スコアを有意に減少させた(中央値0.23±0.39対0.32±0.45;P=0.013)。治療サイクル1でSaforis群だった患者は、クロスオーバーをして治療サイクル2のプラセボ群になっても予想よりも口内炎の発生が低値であり、このことは有意に効果が持続することを示していた(P=0.027)。治療と関連した(または関連しないものも含めて)有害事象の発生は2群で同程度であった。

結論:
Saforisは 粘膜障害作用の癌の化学療法を受けている患者の口内炎の予防と治療に対して安全性と効果があることが明らかになった。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>

■アメリカの論文でFDAで承認するためのフェーズⅢの臨床試験なのに、なぜロシアでの調査なのか? 人種間での効果に違いはないのだろうか?

■ウオッシュアウトの期間がなく、1回目の影響が残るがいいのだろうか。
→対象は化学療法を連続投与しなければいけないため、休薬期間をもうられないためこの研究デザインしかないのではないか。

■サイクル1の前のベースライン時の口内炎がグレード0なのに、2サイクル目にはデータを取っていないのはなぜか。
→対象者を考えると、繰り返しの化学療法で口腔内の状態が完全にクリアできないので、やむをえない。

■論文の最後にも書いてあるが、今回クロスオーバーにしたのは、サンプルサイズの計算上300名の対象者が必要だったが、対象者が160名しかいなかったため、やむなくクロスオーバーにしたようである。

■今後の課題は、サフォリスの持続効果の時間が不明であること。どの程度持続効果があるかは分からないが、効果があるのは確かなようだった。

■グルタミン酸でよいならば、味の素でもいいのではないか。
→サフォリスは吸収率の早いグルタミン酸という特徴がある。

■今後、抗がん剤の副作用軽減の薬のビジネスチャンスは大きい。サフォリスは、安全性もあり、適応範囲は広いだろう。

■持続効果が残ることをわかっていて、クロスオーバーのデザインにしたのは解釈にやや無理があるように思う。普通のRCTならば効果ははっきりするのではないか。

■口内炎の判定には、歯科医の客観的な判定が重要なことが今回の論文からもいえる。







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