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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2008.9.9

2009年9月9日 担当:近藤

Immediate vs Delayed Intervention for Acute Coronary Syndromes
:A Randomized Clinical Trial
~ 急性冠動脈症候群に対する早期および遅延インターベンション
                                                                        :無作為化臨床試験 ~
出典: JAMA. 2009;302(9):947-954
著者: Gilles Montalescot; Guillaume Cayla; Jean-Philippe Collet; et al.
<論文の要約>
背景:
急性冠動脈症候群(ST上昇を認めないが多くの冠血管リスクを持ち、心臓発作のイベントが発生した人)の患者に対しては、できるだけ早期のインターベンションを行うことが国際ガイドラインでは推奨されている。しかし、理想的な介入時期はよくわかっていない。

目的:
入院直後のインターベンションが、それより遅いインターベンションに比べて心筋梗塞発症を減少させるかどうかを調べること。

デザイン、セッティング、患者:
ABOARD研究は2006年8月から2008年9月まで、フランスの13施設で352名の急性冠動脈症候群患者を対象として行われた無作為化臨床試験である。対象者はST上昇を認めないが、Thronbolysis in Myocardial Infarction Score が3以上の患者で、入院直後あるいは翌日以降(8時間から60時間)にインターベンションが行われた。

主要評価項目:
主要エンドポイントは入院中のトロポニンピーク値で、主要な2次エンドポイントは1ヶ月中の死亡、心筋梗塞、あるいは再手術の発生。

結果:
緊急インターベンション群と遅延インターベンション群の、ランダム化割り付けからインターベンションまでの平均時間は、前者が70分であり後者は21時間であった。2群間の主要エンドポイントに差は無かった。トロポニンIピーク値の中央値[4分位幅]は緊急群と遅延群でそれぞれ2.1[0.3-7.1]ng/mL vs 1.7[0.3-7.2]ng/mLであった(p=0.7)。主要2次エンドポイントが緊急群の13.7%(95%信頼区間:8.6-18.8%)、遅延群の10.2(5.7-14.6%)に見られた(p=0.31)。その他のエンドポイントや出血などに差は無かった。

結論:
両者の結果に有意な差は無かった。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■今回は医学科3年生が実習できていたので、臨床的でわかりやすいものを選びました。

■研究が行われたフランスの医療環境を踏まえ、実際の状況に起こりうる2つの状況(入院してすぐインターベンションを行うか、翌日落ち着いてからやるか)を比較したという意味で、effectiveness研究に近く、この点は評価できる。

■入院緊急手術よりも、1日後の予定手術のほうが、スタッフ確保・手術準備の際のゆとりや安全性・治療コスト・スタッフの負担など、多くの面で有利。翌日手術でもパフォーマンスに代わりが無いという情報は、臨床現場の人にとってはとても役立つ情報だろう。

■サンプルサイズが小さく、サブ解析が不十分だった、ということだが、プライマリ解析はきちんとやられていることを考えるとこれで十分だろう。

■緊急手術するメリットとしては退院が早まることくらい、と考えていいか。



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