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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2010.1.13

2010年1月13日 担当:近藤

Self-rated health before and after retirement in France (GAZEL): a cohort study
~ 定年退職前後の主観的健康度の変化:フランスGAZELコホート研究 ~
出典: Lancet 2009; 374: 1889-96
著者: Hugo Westerlund, Mika Kivimaki, Archana Singh-Manoux, Maria Melchior, Jane E Ferrie, Jaana Pentti, Markus Jokela, Constanze Leineweber, Marcel Goldberg, Marie Zins, Jussi Vahtera
<論文の要約>
背景:
高齢化が進む多くの先進諸国政府にとって、高齢者の労働市場への参加拡大は重要な課題である。高齢の労働者の主観的健康度が労働と退職によってどう影響を受けるかを、縦断的に検討した。

方法:
1989年から2007年の間に、フランス国立ガス電気会社に勤める労働者14714人(うち11581、78%が男性)を、最大で退職前後7年間、合計15年追跡したGAZEL研究のデータを用いて、generalized estimating equationsを用いた繰り返し測定ロジスティック回帰により、調査参加者の主観的健康度の変化を観察した。

結果:
suboptimum(主観的健康度が「普通」以下)な健康状態は年齢と共に概ね上昇した。しかし、定年退職の年前後1年間(合計3年間)は、suboptimumな健康状態の有病率は19.2%(95%信頼区間18.5-19.9)から14.3%(13.7-14.9)に低下し、健康度に換算して8-10年分改善した。この影響は特に男性で強く、suboptimumな健康度を報告すオッズ比はオッズ比は男性で0.68(0.64-0.73)、女性で0.74(0.67-0.83)であった。また職業階層が低い場合0.72(0.63-0.82)、高い場合0.70(0.63-0.77)で、退職後7年間、同じ健康度が維持された。退職前に望ましくない労働環境にあったものと、健康状況に問題を抱えていた人の場合、退職前の健康状態悪化のスピードは速かったが、退職による改善の度合いも高かった。一方、職業階層が高く、デマンドが少なく、労働内容に対しての満足度が高い集団では、同様な退職に関連した健康度の改善は見られなかった。

解釈:
就労環境が悪い人が主観的に評価して自身の健康状態はあまりよいものではなかったが、退職により、大幅に改善することが示された。また、より多くの高齢者に労働を続けてもらうためには、現状の高齢者の就労環境を見直していく必要が示唆された。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■今回は平成22年初のジャーナルクラブでした。今回は精読ではなく、スタッフによるスキム・リーディングの練習セッションとした。

■GAZEL研究は健康に影響を与える社会経済的・心理社会的要因に関するデータを次々と発表しているフランスの有名コホート。

■今回の解析方法は、パネルデータを用いた疫学的課題の観察のための分析法として参考になる。

■社会経済的に低位の労働者ほど、働いているうちの付加が強く、健康度を低く評価しており、退職により、その負荷から開放されることで得られる健康への恩恵も大きくなる、ということがきれいに示されているようで興味深い。

■客観的な健康指標の推移についても知りたい。


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