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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2010.2.3

2010年2月3日 担当:井川

Effects of a Palliative Care Intervention on Clinical Outcomes in Patients With Advanced Cancer: The Project ENABLE II Randomized Controlled Trial
~ 進行がん患者に対する緩和ケア介入の効果
                        プロジェクトENABLEENⅡによるRCT ~
出典: JAMA. 2009;302(7):741-749.
著者: Marie Bakitas; Kathleen Doyle Lyons; Mark T. Hegel; Stefan Balan; Frances C. Brokaw; Janette Seville; Jay G. Hull; Zhongze Li; Tor D. Tosteson; Ira R. Byock; Tim A. Ahles
<論文の要約>
背景:
腫瘍学的治療と同時に緩和ケアを行うことで、がん患者のQOLは向上するとされているが、エビデンス不明瞭である。教育的・養育的・助言・終末期ケアなどの介入を含む、プロジェクトENABLEによる介入により、QOLが向上し、症状が軽減され、医療資源の活用が減少するか、検証した。

方法:
進行がんの診断を受けてから8~12週間以内で、余命約1年のがん患者1222名を、2003年~2007年の間にスクリーニングし、そのうち322名を、通常ケア群(n=161)と介入群(n=161)にランダムに振り分けた。メインアウトカムを、QOL(FACT)、症状強度(ESAS)、医療資源の活用状況、セカンダリーアウトカムを抑うつ状態(CED-S)として、ベースライン、ベースより1カ月後、その後は3カ月毎に、各尺度における介入群と通常ケア群の平均値の差を算出した。

結果:
全サンプルへの分析(intention-to-treat)では、介入群は通常ケアより、QOLが高く(mean=4.6、SE=2,p=.02)、症状強度は低く(mean=-27.8、SE=15,p=.06)、抑うつ状態も低い(mean=-1.8、SE=0.8,p=.02)傾向にあった。研究中に亡くなった患者への分析も、似たパターンであった。医療資源の活用状況は、入院日数、ICU入室日数、救急にかかった回数に差はなかった。

解釈:
国際ガイドライン(international guideline and consensus recommendations)で推奨される緩和ケア介入のRCTは初めてであり、緩和ケアが終末期患者のQOLと抑うつを改善するというエビデンスが示されたことは意義がある。進行している症状を軽減するのは現実的ではないが、身体症状があってもQOLが上がることや、症状の強い患者では、さらに症状改善するための余地があることを示唆している。
対象者の抱える多次元的な症状をとらえきれるほど、スケールや介入方法が十分ではないが、QOL向上や抑うつ状態の軽減は、患者にとって優先度の高いゴールである。今回の介入では、症状の軽減や医療にかかる頻度を減らすことはできなかったが、QOL向上と抑うつを減らすことはできたのではないか。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
論文を読むためのチェックリストの再確認:「保健医療福祉の研究ナビ」p41のチェック項目を参考にして、論文内容のエビデンスレベルについて検討を行った。

■サンプルサイズの算定→算定していたサンプルサイズより少なめになったが概ね妥当である。 メインアウトカム・セカンダリーアウトカム→明確になっている。プライマリーアウトカムは介入によってQOL(FACT)のみ向上したが、症状強度(ESAS)、医療資源の活用状況には差が生じなかった。

■ブラインディング→参加者、調査者のブラインディングは行われている。

■ITT→全サンプルへの分析、研究中に亡くなった患者への分析において、ITTが行われている。

■結果は仮説が支持されているか→一部支持。仮説に基づくコメントがされている。

■サンプルの特性に問題がないか→介入群、コントロール群の結果に影響を及ぼしそうな属性に違いがなかった。

■研究の弱点→対象者のethnicityなど偏りがあり一般化は難しい。

■次なる課題はなにか→より症状が強い患者を対象にしたらより効果が明確になるかもしれない。


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