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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2010.7.14

2010年7月14日 担当:横道

Use of venlafaxine compared with other antidepressants and the risk of sudden cardiac death or near death: a nested case-control study
~ 心臓突然死とその類似死亡リスクについてvenlafaxineやほかの抗うつ剤使用との比較:コホート内症例対照研究 ~
出典: British Medical Journal 2010;340:c249, doi:10.1136/bmj.c249
著者: Carlos Martinez, adjunct professor, consultant epidemiologist, Centre for Clinical Epidemiology, Jewish General Hospital, and Departments of Epidemiology and Biostatistics and of Medicine, McGill University, Montreal, Canada
<論文の要約>
目的:
抗うつ剤であるvenlafaxine(SNRIの一種)の使用が、ほかのよく使用される抗うつ剤と比較して、心臓突然死及びその類似死亡リスクを増大させるかどうかを評価すること

デザイン:
人口に基づいたコホート内症例対照研究

設定:
United Kingdom General Practice Research Databaseを用い、新しく当該薬剤を使用するコホートに付き、コホート内症例対照研究解析を行った

対象:
うつ病又は不安障害と診断され、1995年1月1日以降にvenlafaxine(SNRI, 日本で未承認)、fluoxetine(SSRI, 商品名:プロザック 1988年)、citalopram(SSRI, 商品名:セレクサ 1995年)、dosulepin(三環系抗うつ薬, 商品名:プロチアデン錠25) を新たに使用し始めた18歳から89歳までの患者。
参加者は2005年2月までフォローアップされるか、心臓突然死又はその類似死亡が起こるまでフォローされた。それらの死亡は医療記録より非致死性の急性心室頻拍の既往があるか、心臓を原因とする突然死があるか、病院外で急性虚血性心イベントにより死亡したかで確認を取った。各死亡に対して30の対照を年齢、性、カレンダー暦、医学的適応につきマッチングさせて選んだ。我々は、venlafaxine使用の心臓突然死とその類似死亡への影響について、ほかのfluoxetine、citalopram、 dosulepin使用と比較とした調整オッズ比を、条件付きロジスティック回帰分析により算出した

結果:
207,384人の対象者が平均3.3年間追跡された。568の心臓突然死とその類似死亡と、それにマッチングさせた14,812の対照が選ばれた。venlafaxine使用者の心臓突然死とその類似死亡はfluoxetine使用に比べてオッズ比0.66(95%信頼区間 0.38 to 1.14)、citalopramと比較して0.89(95%信頼区間 0.50 to 1.60)、dosulepinと比較して0.83(95%信頼区間 0.46 to 1.52)であった

結論:
この大規模な国民に基づいた研究では、うつ病と不安障害の患者においてvenlafaxine使用はfluoxetine使用、dosulepin使用、citalopram使用と比べて、心臓突然死と類似死亡を増加させるとの関連は見出されなかった

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■いくつか設定を変えてsensitivity analysisを行っているが、ほかにも変える余地はある。その結果はどうだったのだろう?

■こう言ったカルテデータによる後ろ向き研究では、解析段階で調整する交絡因子をどこの時点で測定するかは繊細な問題になる。この研究ではインデックス日の1年前と、患者と対照をコホートへの組み入れを決めた時点との両方で解析を試みている点は評価できる。

■この研究は新しいSNRIであるvenlafaxineの有害事象がほかの薬剤と比べて多くはなくむしろ少ない、という結果であった。研究の資金がそれを製造している製薬会社であることは加味して読むべきだ。

■コホート内症例対照研究の利点は3つあり、①研究対象者を母集団でなくコホート内に限定できることから安価で研究できること、②コホート研究の後のデータの二次利用としてコホート内症例対照研究ができること、③コホート内症例対照研究では標本採取をコホート内に限定してしまうことにより、症例対照研究の最大の弱点の1つである、症例と対照で異なる集団から標本が取られてしまうという危険を回避できる、というものである。欠点は、対象者の検体や記録を保管しておいて後から分析に用いるという状況は多くない、とうことがある。

■英国はこういったカルテデータを中央が持っていて研究が行える。日本も統一した電子カルテになったらこういった大規模な研究ができるのだろう。

■症例1に対し対照30は、まれであると考えられる有害事象をオッズ比で検討するにあたり、限られた症例に対して検出力を上げる目的で設定されたものだろう。


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