PAGE TOP

国立大学法人

山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2010.9.29

2010年9月29日 担当:高岸

Nationwide Public-Access Defibrillation in Japan
~ 日本における全国的な公共の自動体外式除細動器 ~
出典: N Engl J Med 2010; 362:994-1004
著者: Tetsuhisa Kitamura他
<論文の要約>
目的:
公共の場における自動体外式除細動器(AED)の設置が拡大することで、院外心停止患者の生存率が改善するか明らかにする。

デザイン:
人口ベース(国家規模)の前向き観察研究

セッティング:
・対象:2005年1月1日~2007年12月31日に日本全域で救急隊による蘇生が試みられた院外心停止患者を対象とした。
・データ収集方法は、ウツタイン様式(Utstein-style)に基づいた形式(心肺機能停止傷病者記録票)を使用して収集された。
・データ項目は、性別、年齢、心電図の波形、蘇生にかかった時間、第一発見者の種類、第一発見者がCPRを行ったか、気管挿管されたか、エピネフリンが投与されたか、病院に到着する前に心拍が再開したか、などであった。これに加えて、1カ月後の生存における神経学的障害の状態についてもデータ収集した。
・患者の神経学的障害の評価は、CPC(Cerebral Performance Categories)スケールを使用した。カテゴリー1は良い脳の性能を表し、カテゴリー2は適度の脳の障害、 カテゴリー3は厳しい脳の障害、カテゴリー4は昏睡または植物状態、カテゴリー5は死として、表現された。
・第1のエンドポイントは、神経障害が最小かつ1カ月後の生存率としました。それは、CPCスケールのカテゴリー1か2と定義された。
・第2のエンドポイントは病院に到着する前の自発的な心拍再開と1カ月後の生存率とした。
・統計解析:多変量ロジスティック回帰分析を用いて、良好な神経学的転帰と関連する因子を検討した。

対象者:
18歳以上の成人の院外心停止患者312,319例

結果:
・対象となった成人の院外心停止患者312,319例のうち、12,631例が心室細動を伴う心原性心停止で、居合わせた人に目撃されていた。このうち462例(3.7%)が、一般市民により公共のAEDを用いた電気ショックが行われていた。
・3年の研究期間の間に、公共の場のAEDの数は9906台から8万8265台に増え、これは国土の居住面積1平方キロメートルあたり0.11台から0.97台に増加したこととなる。
・3年間の間に、居合わせた人によってCPRが行われた割合は43.3%から53.6%(P<0.001)まで増加した。一般市民によって開始されたCPRのうち、圧迫だけの心肺蘇生(CPR)は50%以上を占めた。
・一般市民により電気ショックが行われた割合は、公共AEDの設置数の増加に伴い1.2%から6.2%に上昇した(傾向性P<0.001)。
・最小神経機能障害での1ヵ月生存率は、居合わせた人に目撃された心室細動を伴う心原性心停止患者では14.4%であり、公共のAEDによる電気ショックを受けた患者では31.6%であった。 ・1カ月後に生存していて神経学的障害が最小の人の割合は2005年は3841人のうちの406人で、2007年は4402人のうちの843人であり、10.6%から19.2%まで増加した(P<0.001)。
・患者が倒れた時間からCPRの開始までの時間は6.5~5.7分(P<0.001)と減少したにもかかわらず、最初のショックまでの時間はP=0.36とあまり変わらなかった。
・早期の除細動は、電気ショックを行う者(市民もしくは救急隊)にかかわらず心室細動を伴う心停止後の良好な神経学的転帰と関連していた(電気ショックまでの時間が1分遅れるごとの生存率に対する調整オッズ比0.91,95%信頼区間0.89~0.92,P<0.001)。公共AEDの設置数が居住地域1km2あたり1台未満から4台以上へ増加するのに伴い、電気ショックまでの時間は平均で3.7分から2.2分に短縮し、最小神経機能障害で生存する心停止患者数は年間1,000万人あたり2.4人から8.9人へ増加した。
・多変量解析では、早期にCPRや電気的ショックを開始したことが良い神経学的転帰に関連していた。
・居合わせた人による圧縮だけのCPRと管理された従来のCPRの両方が良い神経学的転帰に関連した。

考察:
・本研究から、公共の場のAEDの数が年々増加するのに従って、生存率が増加したのを示した。また、公共の場のAEDの全国的な普及により、最初の電気ショックまでの時間が短縮し。院外心停止の後の生存率が向上したことを示した。
・先行研究では単なるAEDの台数の増加は生存率が改善しなかったことを示しており、CPRと併用して行うことが生存率の改善に重要であることを示している。
・研究の限界は、以下の4点である。1つ目は、患者が倒れた場所や公共の場のAEDの位置の詳細な情報を得られなかったこと、2つ目は、AEDがショックを送らなかった場合に関するデータがなく評価が十分でなかったこと、3つ目は、一般市民のうち、だれ(家族かその他)がAEDを使用したかという情報がないこと、4つ目に、すべてバイアスや信頼性を担保することができないこと。
・今後は費用対効果などの分析も必要であると考える。

結論:
結論として、この大規模な国家規模の観察的研究は、公共の場のAEDの全国的な普及が公共の場のAEDの使用に従って電気ショックの頻度を増加させて、病院の外で居合わせた一般市民によって目撃された心臓に起因した心室細動による心停止の治療成績(1カ月後の神経学的障害が最小限の生存率)の向上に貢献したことを示した。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■よくデザインされてデータ収集された研究だ。
■アウトカムが明確であり、分析もシンプルでわかりやすい。
■観察研究であり、未調整の交絡が存在する可能性は否めない。



前のページに戻る