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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2011.2.2

2011年2月2日 担当:横道

Intensive lowering of LDL cholesterol with 80 mg versus 20 mg simvastatin daily in 12 064 survivors of myocardial infarction: a double-blind randomised trial
~ 心筋梗塞後12064人に対するLDL降下療法。スタチン80mg vs 20mgの二重盲検下ランダム化試験 (SEARCH study) ~
出典: Lancet 2010;376:1658-69
著者: SEARCH研究協力会
<論文の要約>
背景:
LDL降下療法は大血管イベントを予防する。しかしより強い降下療法が安全に、さらなる利益をもたらすかは不明である。心血管ハイリスク患者に対してスタチン強化療法が有効かつ安全に行われるかを検証するために本研究を行った。

方法:
二重盲検下無作為割り付け試験を行った。無作為化割り付けは、最小化法により、一方の群をsimvastatin(国内商品名リポバス) 80mgに、一方の群をsimvastatin 20mgに割り付けた。割り付け後、患者は2,4,8,12ヵ月後に評価され、その後は6ヶ月おきに評価され、主要評価項目は大血管イベント、すなわち冠動脈疾患死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術、とした。解析はintention-to-treat。
対象者は、18歳から80歳までの男女12064人の心筋梗塞の既往がある患者。これまで、または研究開始時点でスタチン製剤の適応が明らかにある者で、スタチン治療下では総コレステロールが3.5 mmol/L(135 mg/dL)以上の者、またはスタチン治療していない場合は4.5 mmol/L(174 mg/dL)以上の者。

換算表:
T-chole, LDL, HDLについては1 mmol/L= 38.7 mg/dL, 0.02586 mmol/L= 1mg /dL
TGは1 mmol/L= 88.57 mg/dL, 0.01129 mmol/L= 1mg/dL

結果:
6031人が80mg群に、6033人が20mg群に割り付けられた。平均フォロー期間6.7年(SD 1.5年)後、20mg群に比べ80mg群はLDLが平均0.35(SE 0.01) mmol/L (13.5(SE 0.39) mg/dL )減少した。大血管イベントは80mg群で1477人(24.5%)、20mg群で1553人(25.7%)起こり、リスク比は0.94(95% CI 0.88-1.01; p=0.10)であった。脳内出血の発生は24(0.4%)vs24(0.4%)、血管イベントによる死亡は565(9.4%)vs 572(9.5%)、非血管イベント死亡は399(6.6%)vs 398(6.6%)で明らかな差はみられなかった。20mg群でマイオパシー(横紋筋融解を含むスタチンの重大な副作用)が2症例(0.03%)出会ったのに対し、80mg群では53症例(0.9%)の症例があった。

結論:
この研究において平均0.35mmol/L(13.5 mg/dL)LDLを下げることにより、6%大血管イベントが減少したのは過去の試験結果と矛盾しない。マイオパシーは毎日80mgのsimvastatin服用により発生が増加した。強いLDL降下療法は他の方法でも達成され得るものと考えられる。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■主要評価項目が中途で変更されたものの、primary endpointを評価するにあたってある程度妥当な研究だろう。

■副次評価項目であるマイオパシーの発生により標本集団が小さくなっていくが、primary endpointである大血管イベント発生に影響を与えないか?筋の障害とprimaryである大血管イベントとに何か関連があるようなら、影響があると考えられる。

■本文”Introduction”で、研究の背景と目的では、「既存の観察研究では冠動脈イベント発生率と血清LDL濃度に正の相関がある」、「既存のランダム化比較試験ではスタチンが血管の閉塞性疾患を減少させる」、「そのなかで平均値以下のコレステロール濃度の被験者についてはLDLの低さが血管の閉塞性疾患のリスクを減少させる」ことから、間接的に「LDLを大きく低下させれば血管イベントリスクを大きく減少させ得る」という仮説に至る、としているが、この論理は少し飛躍している。

■80mg群は20mg群に比べ大血管イベントは減少させているが、総死亡で2群がほぼ変わらない結果となっているのはなぜか?平均6.7年追跡した結果、80mg群で急性心筋梗塞の再発には予防的に働いているが、慢性心不全による死亡が後に20mg群より多くなり、総死亡ではその強化療法の効果が相殺されている。

■これは母集団を心筋梗塞の既往者、についての研究であるから他の集団へ結果を直接適用できない。



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